Opinion : "9 条ナイフ" の話とか、武力革命の話とか (2009/7/20)
 

先日、大阪で車の通行をめぐるトラブルが原因で、一方の当事者が相手をナイフで刺して、刺された被害者は重体、というニュースがあった由。問題は、その加害者が「無防備宣言運動・護憲運動」に関わっていたこと。

「それは、日頃の行いと矛盾しているじゃないか」というだけの話で、それ以上の話でもそれ以下の話でもない。少し前に、「海自の派遣に反対しておきながら、海自に護衛されたツンデレ団体・ピースボート」のニュースと同じレベルの話。

ところが、「無防備・護憲」方面の人にとってはいささかありがたくないニュースだったようで、擁護のための理屈がいろいろとひねり出されている様子。でも、仲間内ではそれで納得させることができても、その他の第三者を納得させるのは無理じゃないだろうか。


まず、「話し合いで解決を」という主張と「トラブルが原因で相手をナイフで刺した」というところの矛盾は、どう逆立ちしても埋められない。そういうときこそ率先して、話し合いで平和的に解決してみせれば、日頃の主張を裏付けることになっただろうに。

それに、ナイフで刺して重体にしたということは、それだけの威力がある刃物を持って歩いていたということで、「それは一体、何のために」という話になる。トラブルが起きることをあらかじめ承知していて刃物を持ち出したのか、トラブルが起きる可能性に備えて刃物を持ち出したのか、どっちにしても筋の通った説明をするのは不可能。

何でも同じだけれど、他人に「○○するべきだ」「○○が正しい」といった類の主張を広める場合、いちばん説得力があるのは、自分が実際にそれをやって見せて、成果を実証すること。100 の能書きより 1 の実績。兵器の世界では "combat proven" という言葉が最高の裏付けになるけれども、それと同じ。

そういえば、しばらく前に「@IT」で、Gmail の spam フィルタ機能を活用して spam メールを排除する方法について記事を書いたけれど、あれは自分が実際に試してみて、ほとんど完璧といっていいぐらいの成果を挙げたから、自信を持って記事を書くことができた。身体を張って証明しているだけに、説得力は抜群。

もっとも私の場合、spam フィルタのところだけちゃっかり使わせてもらって、フィルタリングした残りのメールはとっとと手元にダウンロードしてしまうので、Gmail の使い方としては、いささか「外道」だけれど。

閑話休題。
その対極を行くのが、以前に書いた「コメント欄なし、トラックバック受付なしで防備を固めまくっている、無防備宣言運動 blog」。無防備にするのが平和の道であると主張なさるのは御自由だけれども、それならそれで、まず身体を張って実証してみせることが、何よりも強力な説得力を生むというのに。

国家間の争い事を話し合いで解決するべきというなら、まず自分の身の回りの争い事を残らず話し合いで解決する。平和のためにかかるコストは甘受するべきだと主張するなら、まずそれを自ら実行する。それができれば、自然と支持はついて来るものだと思うけれど。

逆に、それができなければ、実現不可能な絵空事を主張していると身体を張って実証する結果になるし、自分ができないことを他人に押しつけようとしているのか、と思われる。それでは誰もついて来ない。そのことを改めて実証してくれたのが、ピースボートの一件であり、冒頭で引き合いに出した事件だったのだろうなと。


もっとも、現在の日本の政治体制に御不満で "革命" を企てる皆さんの中には、「国家の誤りに対して、個人が武器を持って抵抗するのは問題ない」という主張があるという話も伝え聞く。

でも、ちょっと待った。確か過去にどこぞの国で、君主様が自分達の思い通りの考えになってくれないもんだから、「君主の誤りは臣下が正すべき」なんていいだした革新派将校がいたような気がするのだけれど。それと似たような理屈じゃないか ? いいのか、それで。

それに、あらゆる場面で「国民が武器を取って政府を転覆する」選択肢が許容されるわけではないのでは。

少なくとも現在の日本では、抑圧的な独裁体制が君臨しているわけではない。政敵を政治犯として刑務所にぶち込んだり、「情報省」とか「宣伝省」とかいう類の役所が公然と存在していたり、(少なくとも、中国あたりで行われているようなレベルでは) インターネット接続を監視したり規制したりしていることもない。

それに、選挙によって国民の意思を反映させる体制があり、かつ、選挙をやる度に「選挙が公平に行われなかった」といって負けた側が文句をつけたり、抗議デモが起きたりする状況でもない。これをもって「抑圧的だから革命によって転覆を」というのは無理があるし、まるで説得力を欠いている。抑圧的でなければなおのこと、武力革命で転覆する理由は成立しない。

もっとも、それだからこそ「誰それは国策捜査によって陥れられた」とかいう類の陰謀論が出回って、現在の日本は抑圧的な体制である、という話に持っていこうとするのかも知れないけれど。なんだかな。

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