Opinion : 確証バイアスと勘違いとデータの見方と (2009/8/17)
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先日、なんとはなしにネットを徘徊していたら、こんな記事があった。
スーパーモーニング 東名高速が「一部崩壊」 地震で露呈したもろさ
その中で、目を点にしたくだりがこれ。
鳥越が「東名高速は、昭和39(1964)年の東京オリンピックに間に合うように急ピッチで作られ、脆弱なところへ土を盛った。そこへ大雨が降り、さらに地震で揺さぶられ崩壊した。
あのー、ちょっと待ってくださいよ ? 東名高速道路が最初に開通したのは 1968 年の話で、東京オリンピックより 4 年も後ですよ ? 名神高速道路か東海道新幹線と、話がごっちゃになってません ?
とどのつまり、世の中のたいていの事象について「不正」とか「陰謀」とかいうものが背後にある、というバイアスがかかった状態で物事を眺めていると、こういう事件が発生したときに、「それみたことか」とばかりに「不正がある」とか「手抜き工事だ」とか「陰謀がほにゃらら」とかいった主張につながるのだろうなあ、と思った。
もっとも、実際には耐震偽装問題みたいなことがあるわけで、あらゆる出来事が真っ正直に、問題なく行われているかといえば、そんなことはない。そう主張するのは無理がありすぎる。
でも、逆もまた同様で、何でもかんでも「不正があるはずだ」「問題があるはずだ」という目で見ると、モノの考え方が歪むんじゃなかろうか。それで、ちゃんとした「権力の監視」や「社会の木鐸」が成立するものなんだろうか。
何でもかんでも不正に結びつけようとばかりしていると、不正でないものまで不正にしてしまったり、ありもしない不正を捏造したり、その一方で「不正慣れ」してしまって本物の不正を見逃したりしてしまわないだろうか。
現実問題、たいていの出来事を不正だの陰謀だのに結びつけてしまう人って、マスコミ業界に限らず、ブロゴスフィアにもよくいる。多分、こういう人にかかると、静岡県で発生した地震も「政治のニュースから国民の目をそらすために、闇の勢力が地震兵器を投入したのだ」とかいう話になっちゃうんじゃなかろうか。あほくさ。
一千万歩譲ってそれが真実だとしても、それならそれで「東海地震」について数十年間も脅かされ続けて、地震対策が行き届いていて防災意識が高い静岡県を狙うのは、あまりにも頭が悪い。闇の勢力が地震兵器で大被害を出して国民の耳目を引きつけるなら、地震なんて起きそうにない場所を狙うのが常識的判断ってものでは。
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いったん、こういうバイアスがかかってしまうと、まっとうな数字データを示された場合ですら、まっとうな読み方ができなくなる。その一例が「日本の軍事費 10 年で 3.9 倍増、加えて 134 の米軍基地と 4 万人超える米兵駐留」(注 : リンク先はウェブ魚拓)
「10 年間で 3.9 倍って、どこの平行世界の日本の話だよ」と思ってよくよく見てみたら、「1970 年の日本の軍事費は 5,695 億円で、1980 年は 2 兆 2,302 億円と、日本の軍事費は10年で3.9倍増にもなっています」とある。おいおい、いつの話だよそれは !
そもそも、この 10 年間には第一次・第二次と二度の石油ショック、それとインフレと狂乱物価というイベントが発生している。物価の上昇と貨幣価値の下落を無視して、単純に金額だけ比較してどぉすんの。もっとも、これは「アメリカの国防費がベトナム戦争以降で最多」という報道でも同じことだけれど。
SIPRI のデータベースで統計を示す際に、数字を「○○年貨幣価値換算」という換算値で示している場合があるのは、いったい何のためかと訊いてみたい。絶対的な金額だけ比較しても意味はないのであって、貨幣価値の変動をアジャストするとか、国家の歳出全体、あるいは GDP に占める国防支出の比率 (つまり、国力のうちどれくらいを国防に費やしているかという指標) を比較するとかいう方法でないと、意味ないでしょうに。
多分、そういう方法で比較すると「アメリカの GDP に占める国防費の支出は、現在でもベトナム戦争の頃より低い」という結果が出ちゃって困るから、絶対的な金額を比較したのだろうけれど。しかも、絶対的な金額で比較すると、日本の福祉予算なんかも 1970-1980 年にかけて激増したことになるんじゃなかろうか :-)
それと、「ヨーロッパでは軍縮がトレンド」という言い方にも要注意。ヨーロッパといってもいろいろな国があるし、どの時期を対象にして調べるかでも違ってくる。それを具体的に例示しないで、ひとからげに「ヨーロッパでは〜」なんていっちゃう人のことは、無視するのが賢明。
それにしても、2009 年の御時世にもなって、四半世紀以上も前の 1970-1980 年の数字を引っ張り出して「日本は軍拡している」と主張する御仁がいるとは思わなかった。しかも絶対的な数字で比較するなんて、論外のそのまた外。仮にも、リンク先で引き合いに出されている山田教授が本当にそんな比較をしたのだとしたら、お話にならない。
「過去に日本の国防支出が増えたのだから、それを受けて中国が国防支出を増やすのは当然」という論理を展開するにしても、タイミングが離れすぎているし、貨幣価値の変動を無視した絶対的金額比較に意味がない点については変わらない。
さらに、そのトンチンカンなエントリを「いいものを見つけた」といってメモっている人までいる。見る人が見たら突っ込まれて大恥をかくだけだから、意気揚々と引き合いに出すのは止めた方がいいと思うんだけれどなあ…
ついでに書くと、「国防費が二桁の伸び」とかいう類の見出しの付け方も要注意。
増分の金額が同じでも、元の金額が少なければ伸び率は上がるし、元の金額が多ければ逆になる。そういう意味では、元の金額が多くなってきているのに二桁の伸びが続いているケースは、元の金額が少ないのに二桁の伸びになっているケースと比べると、より注意して見る必要がある。
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