Opinion : 現場 vs 机上 (2009/10/19)
 

「事件は現場で起きてるんだ !」というセリフでおなじみの、ドラマだか映画だかがあったような気がするけれど、芸能ネタには疎い私のことなので、細かいところはあやふや。

これだけ見ると「現場至上主義、現場にいないやつがゴタゴタいうな」という話になりそうだけれど、さて、そんな簡単な話だろうか。なんてことを、某所の炎上騒動を見ながら考えた次第。(リンクしたら "某所" にならんがな")


たとえば、車輌の乗り心地や加減速の感じ、あるいは実際に運転してみたときのフィーリングといったものは、現物を見て、乗って、運転してみないと分からない。そういう意味では、実際にレオパルト 2 戦車を運転した野木恵一氏が羨ましい。さすがに戦闘機になると、ただ「乗る」という訳にはいかないから大変だけれど。

同じ理由で、実際に自衛隊の現場で自衛官と寝食を共にしながら取材して、飾らない現場の姿を書き続けている杉山隆男氏の著作にも、大きな価値があると思う。現場で取材するからには、現場でしか分からないことについて書く、という姿勢で筋が通っているし。

でも、現場取材だけではなくて、コツコツと公開情報を収集することにも意味がある。私が「911」からこちら、米国防総省が公表している予備役動員のデータを集積し続けているのも、何らかの "仕草" が現れる指標になるのではないかと思っているから。こういうのは現場にいなくても分かる種類の情報。

え ? 英語で書かれている情報なんだから秘密裏にやっているということじゃないかって ? 知らんがな。

それに、内調にしても CIA にしても、仕事の大半が公然情報の収集だというのはよく知られている話。そのこと自体、報道などの形で公開されている情報をコツコツと収集・分析することの重要性を示しているといえる。場合によっては、むしろ現場から離れて俯瞰する方が状況が見える、なんてこともあるかもしれない。

自分は MSKK で 7 年ほど仕事をしていたけれど、自分が関わっていなかった製品、あるいは部署のことはよく知らない。だから、MSKK のことなら何でも知っていると思われても困るし、自分でもそんなことを主張するつもりは毛頭ない。現場にいた人間でも、こういうこともある。

戦前、帝国陸海軍の士官の中にはアメリカに駐在していた人が何人もいたけれども、アメリカの現状、アメリカという国の本質をしっかり把握して帰ってきた人もいれば、「米軍のこんなところが駄目だ」という話 (それがまた、ちょっとピントが外れていたりする) ばかり見て帰ってきた人もいる。
いざ対米開戦ということになった後で、どちらの見方が正しかったかは、もういうまでもない。同じように現場にいても、当人の取り組み方・見方・感じ方によって結果は違ってくるという一例。アメリカに限らず、他国の駐在でも同じか。

細々した個別の事例を挙げ始めると終わらなくなるので、この辺でまとめてしまうと「現場にいないと分からない種類の情報」「現場から離れていても得られる種類の情報」「現場から離れている方が得られる情報」といったものがあり、さらに、現場にいないと分からない種類の情報でも、本人の心がけ次第という部分がある。それらがうまく噛み合うことで初めて、状況の分析・判断といったインテリジェンスにつながるんじゃないの、ということ。

よく、何か自分がやっていることについて批判されたときに「実際にやってみたこともないのに」とか「現場にいたこともないくせに」といった類の反論が出てくるけれども、それが当を得ているかどうかは、先に挙げた 3 種類のどれに該当する話なのかによって違うはず。

だから、現場にいたというだけで優越感を抱いてしまったり、何でも知ってると思ったりするのは、それこそもう大間違いのこんこんちきである、といいたい。それに、第三者的な視点で物事を眺められると、当事者とは違った見方ができて、それが役に立つ場面だって考えられる。もっとも、逆もまた真なりで、現場から離れていた方が何でも分かるのだ、と主張するのもこれまた、大間違いのこんこんちきだけれども。


最近、鉄道関連書籍の執筆が増えていることもあり、改めて「乗り鉄」に精を出している。実はこれも、「実際に現場に行って見聞を広めておく方がいいんじゃないか、机上だけでは分からない情報がきっとある」と思った部分があるから。単に気分転換のためだけにやっているわけではない (というつもり)。

かと思えば、もうひとつのフィールドである軍事関連では、メーカーなどの公式発表データをコツコツと溜め込み続けている。その場で直ちに仕事につながらなくても、後になって原稿執筆の役に立っているし、細々した公表データを積み上げることで見えてくるものもある。特に「秘密保護」の壁に阻まれやすい軍事関連情報では、公然情報の集積は極めて重要。見ようによっては、公然情報の収集だってひとつの現場。もちろん、現物・現場を見ることだって重要だけれど。

と、いろいろと書いてきたけれども、それで何をいいたかったかといえば、「軍人上がりではない軍事評論家」「現場に出ない軍事評論家」だからといって貶めるようなことを書いていいわけ ? ということ。
そんなことを平気で発言する人自体、情報との向き合い方、あるいは前述した 3 種類の情報の違いというものを、全然分かっていないんじゃないかと主張したい。

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