Opinion : 菅直人副総理の訓辞に感じた違和感 (2009/10/26)
 

昨日、観艦式の取材に行ってきた。

肝心の観閲・訓練展示が終わった後で、(ASEAN の会議に出掛けて不在の首相に代わって) 観閲官として出席した菅直人副総理兼国家戦略担当相の訓辞が。もちろん、観閲官が乗っていたのは「くらま」で、自分が乗っていた「まきなみ」ではないのだけれど、他の艦にも訓辞の内容をライブで中継してくれていたので、ちゃんと聞くことができた次第。

その訓辞というのが、「海上自衛隊の威容に接して云々」といったあたりから始まり、海上自衛隊がソマリア沖で P-3C や護衛艦を派遣して実施している海賊対処活動については「広く内外から高い評価と感謝の言葉をいただいている」、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験を引き合いに出して「米国は無論、中国、韓国、ロシアなどと緊密に連携し、安全確保に万全を期さないといけない」、でもって「自衛隊の活動の場は海外に広がっている。わが国の主体的判断と民主的統制の下で自衛隊が国際社会の平和と安定に貢献していくことを望む」といった具合。

これを聞いて、ちょっと「はあ ?」という感覚を持ってしまった。


以前から書いているように、軍事は政治に従属するものだから、政治家が国家としての方針を決めて、それを受けて軍事力をどう使うか、という話に持って行くのが筋。だから、国際問題に対して日本がコミットしていきます、そのために自衛隊も使います」と政治が決めるのであれば、それはそれ。

ただ、海外任務に出すなら出すで、必要とされるリソースをちゃんと整えてやるのもまた、政治の責任。ここでいうリソースとは、人員・資金・装備の話、すべてひっくるめたもの。単に防衛予算の概算要求が前年を下回っていて云々とかいう話ではなくて、「政治家が軍隊 (自衛隊も含む) になにがしかの任務を付与するのであれば、それに見合ったりソースを付与するのは政治家の義務。文民が統制するというのは、そういうこと。

今売りの「エアワールド」誌に書いた記事で取り上げたイギリスに限らず、アフガニスタンの ISAF (International Security Assistance Force) に部隊を出している諸国ではしばしば、「派遣部隊の装備が不足していて、兵士の生命が危険に曝されている」という指摘が出てくる現状について、菅直人副総理、あるいは民主党は、どう考えているのだろう。仕事は増やす、でも人も資金も増えません、現場でなんとかしてください、というのは無責任極まりない。

あと、ハードウェア的な話だけではなくて、交戦規則みたいなソフトウェア面の話もそう。あまりにも他国と乖離した、独りよがりな規則を押しつけて部隊を送り出すのであれば、結果として派遣部隊の生命を危機にさらすし、一緒に仕事をする他国の部隊にも迷惑がかかる。この件も含めて、派遣された部隊が後顧の憂いなく、全力を挙げて任務に専念できる環境を作るのは、任務を命じる以上は当然のことでしょ ?

それに、海外派遣を恒常化するということになれば、いちいち特措法を作って国会で通してから、というのは矛盾があると思える。そうではなくて、汎用的な法律を平素から作っておいて、「かくかくしかじかの条件が満たされて、国会で承認を受けたら派遣する」という形を作るのが筋であろうし。

さらに書くならば、自衛官のモチベーションを維持する観点からすれば、国防の仕事、安全保障をめぐる仕事をすることに誇りを持てる環境を作ることだって必要だと思う。まあ、世間一般についていえば案外と、自衛隊の存在・活動に対する支持は得られているなと思えるようになったけれど、永田町のレベルだとどうだろう。

資金的な話についていえば、通常の人件糧食費・訓練/作戦経費・装備調達費などといった固定的な枠とは別に、海外派遣などの任務が突発的に発生した際に所要の資金を確保する枠組みを、平素から財務当局と協議してまとめておく必要があるし、場合によってはそのために緊急装備調達が必要になるかも知れない。

(軍事作戦に限らないけど) 何事もゲタをはいてみないと分からないものだから、派遣が決まってみたら、あるいは派遣後に何か必要なものが出てくるのはよくある話。そうなると、イギリスの UOR (Urgent Operational Requirement) みたいに、資金だけでなく調達プロセスも含めて、通常の枠とは別に迅速に対応できるような仕組みを作らないといけない。

そういうところまで考えた上での訓辞ですかあ ? というのが、観艦式において菅直人副総理の訓辞を聞いたときに感じた違和感だったというわけ。御立派なスピーチをするのは結構だけれども、それが実際の行動を伴ってこそ意味があるわけで。そこのところ、民主党は一体どう考えているんだろうかと。


あと、「エアワールド」で書いた話の繰り返しになるけれども、あくまで自国の護りをちゃんと固めた上での国際貢献。自国を放り出して他国の助っ人に行くのは、自分の家が火事になっているのに、他所の国に火消しの手伝いに行くようなもの。

F-X 問題に絡んで出てきた防衛産業基盤時の問題なんかも含めて、戦後 60 年間にわたって続いてきた体制・考え方などについて、そろそろ根本的に考え方を見直すべき時期に来ているように思える。別に「先軍政治」にしろとかいっているわけではなくて、軍事力の必要性や目の前の情勢について冷徹な認識と対応が必要だし、脳内御花畑はもう止めようぜ、という意味で。

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