Opinion : とりあえず強者を叩いておけ、の法則 (2009/11/9)
 

衝突事故に見舞われた海自のヘリコプター護衛艦「くらま」が、出航したというニュースがあった。写真を見ると自力航行しているように見えるものの、写真の範囲外に曳船がいて曳航している可能性もある。ともあれ、まったく身動きできないというほどの被害ではなかったようで、少し安心した。といっても、これからしばらくはドック入りだろうから、海自にとっては困った話ではある。

この件に関して私の blog のコメント欄で、「海自に非がないと分かった途端に報道が静かになってしまった」なんて突っ込みがあった。

そのことの真偽はともかく、何か事故があるとすぐに「自衛隊の側に非があるのではないか」と言い出す人が出る傾向はある。実際、その通りだった事例もあるが、中には「潜水艦当て逃げ説」を唱えていたのに有耶無耶になってしまった事例もある。

先週にも書いたように、事故発生直後の情報が錯綜している時点で、早々に「原因は○○ではないか」とか「○○の側が悪いのではないか」なんてことを軽々しく口にするべきではないと思う。それで間違ってたらどうするの、という問題もあるし、世間に要らぬ予断を与えて混乱させる原因にもなるし。

ただ、特に警察・消防・自衛隊といった稼業は「国民の安全を護るのが仕事」だから、他の職業以上に厳しい目にさらされるのは仕方ない。とはいうものの、それだけの理由で疑いの目を向けられやすくなるのかな ? と疑問に思う。


それは、「安全を護ることになっている職業に対する厳しい目線」とはまた異質のもの。むしろ、「自分が気に入らない存在を叩く口実が欲しい」というものではないか、という話。そこで、「自衛隊の不始末や過失をあげつらうと日本が平和になるの ?」と突っ込んでみたい。

医療過誤をめぐる報道についても個人的な感じていたことだけれど、ミスがあったときにそれをあげつらい、集中豪雨的なバッシング報道を展開することが、果たして問題の解決になるのかなあと。考え方によっては、実は逆効果ではないかという考え方も成り立つ。

たとえば、(引き合いに出して申し訳ないけれども) 自衛隊が何か事故を起こしたとする。そこでバッシング報道を展開して自衛隊の評判が下がり、結果として隊員の士気が下がったり人員募集に支障をきたしたりすれば、むしろそれは自衛隊を国民にとって危険な存在にしてしまわないだろうか。これに限らず他の業界についても、同じことがいえると思う。

もちろん、不祥事、あるいは失敗をしでかしたこと自体はよろしくない。だから、事故を起こしたときには原因を究明して再発防止策を講じるのは当然の話。ただ、それを精神論で済ませて現場にしわ寄せするだけなのか、事故を起こさないシステムを構築する方向に行くのか、という問題はあるにしても。

そういったことと、組織そのものに対する批判、あるいは組織の必要性に対する議論は切り離して考えないと、却ってまずいことになるのではないかと書いてみたい。
個人的な例でいうと、例のストックオプションの件で国税庁と大喧嘩した。ただ、だからといって国税庁という組織が要らないとは思わないし、税という制度だって必要。どこかの民主ナントカ団体みたいに、反税なんてことはいわない。場当たり的な裁量行政で行政に対する信頼をなくすようなことをしないでもらいたい、というだけの話。

そういう考え方ができなくて、隙あらば何でもネタにして叩いてやろう、とにかく何でも悪者扱いしてやろう、というだけの態度は、むしろ逆効果になるんじゃないかと。もっとも、そういうやり方って、安上がりに「正義を吹聴する私ってステキ !」みたいな満足感に浸れるのは事実だろうけれど。

そういう意味では、何かにつけて「政府などのやることは間違ってる、俺様のいうことは正しい !」と書く中二病ブロガーにも、同じことがいえるのかも。


といったところで、唐突に思い至ったのがホワイトバンド。個人的な定義では、あれは "いいことをした気分" あるいは "正義に加担した気分" を売る商品だったのだろうと思う。

つまり、自分たちが恵まれた状況で暮らしている、その一方では、貧困で日々の食い扶持にも困っている人がいる。そこに「先進国が発展途上国から債務という形で搾取している」という話を持ち出し、「それを変えさせるための意思表示としてホワイトバンドをつけてください」というキャンペーンを張る。
それを買った側は、ホワイトバンドを買って身につけただけで「いいことをした気分」「貧困撲滅に力を貸した気分」が手に入る。いっちゃ悪いが、安上がりにいい気分になれる。

何かというと大企業、あるいは国や国の機関が先に悪者扱いされる傾向があるのは、「まずは強そうな側を叩け」「弱者の味方をするのはいい気分」といった類の考え方が根っこにあるのではないかなあ。そういう意味では、ホワイトバンドという名のイカリングがバカ売れしたのと通じるものがあるのではないかなあ。なんてことを考えてしまった次第。

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