Opinion : 駐留なき安保 ? (2009/12/21)
 

%タイトル% が総理の信条だったけれど、現実と直面するとそうもいっていらず「封印しなければならない」なんていう話になった模様。カメラには手ぶれ防止があるけれど、政治家にも信条ブレ防止が必要ではなかろうか。

なんて嫌味はともかく。そもそも「駐留なき安保」というものが実現可能なのかどうか、ちょっと考えてみようと思った次第。


一般に、「駐留なき安保」と聞くと、「普段は駐留していないけれども、いざというときには駆けつけてきてもらう」と解釈されるだろうと思う。とりあえずは、その線に沿って話を展開することにして。

そもそも、この手の話が出てきたときに「有事」の話しか思い浮かばない時点でどうかと思う。軍事力の存在意義のひとつは「抑止力」なんであって、花火が上がって本物の「有事」に発展してしまった時点で、当初の目的を達成し損なったといえる。その場合には第二の目的として、侵攻を排除するフェーズに移る。まずは抑止力として機能することが先決。

では、抑止力として機能するには何が必要か。もっとも有力なのは恒久的な駐留。これは間違いない。先々週だったか「現存艦隊」なんて言葉を持ち出したけれども、これは艦隊に限らず、地上軍でも空軍でも同じこと。そこにそれが存在するということ自体が、「うっかり手を出すと大火傷する」という認識を与えて抑止効果を発揮する。「駐留なき安保」となった場合、自らその抑止効果を減殺してしまうわけだから、むしろ危険度を高める可能性があると思う。

もうひとつ。言い方が露骨すぎてよくないけれども、一種の「人質要員」あるいは「トリップワイヤー」という意味合い。たとえば日本に米軍が駐留していれば、日本に手を出すということはすなわち米軍も巻き込むということ。
米軍の駐留に反対する人が「米軍がいると攻撃目標にされる」なんてことをいうけれども、この手の発言は図らずも、「日本に手を出すということはすなわち米軍も巻き込むということ、すなわちトリップワイヤーとしての存在意義」を認めてしまっている。

では、恒久的な駐留を止めた場合にどうなるかという話。現実問題として、何も部隊も施設も置いていないところにいきなり駆けつけて効率的に軍事作戦を展開するのは、無理とはいわないまでも苦労が増える。それに、日本の防衛であれば自衛隊と米軍の共同作戦ということになるだろうから、普段から意思の疎通を図っておかないと、いざ花火が上がったときにギクシャクしてしまう。

結局、米軍がよくやる手で、あらかじめ現地に司令部要員だけでも配置しておいて、平素から調整や合同演習を定期的に実施、有事の際に展開した部隊を指揮下に入れて即座に任務に移れるようにする、というのが合理的な選択肢。あれ、この時点で「駐留なき」が破綻してしまったよ ?

それに、「駆けつけてくる」からして簡単な話じゃない。人間だけでも相当な数 (米軍の典型的な 1 個師団で 1 万数千人) にのぼる上に、装備・弾薬・その他の各種補給品を合わせると、トンでもない分量になる。1 個師団だけでも、大型輸送艦が何隻もないと運びきれない。それを運んで陸揚げして現場まで運んで、なんてやっていたら時間がなくなる可能性は低くない。日本は国土の縦深がないのだから。

では、装備だけ事前集積しておけば、という話が出てくるかも知れない。そうすると、装備の維持管理を担当する要員を置かないといけない。洋上事前配備船でどうだ、といい出す人がいるかも知れないけれど、あれは配備船の定置場所と行き先が異なるから自力で移動できるように船にしているので、可能であれば最初から、陸上に置いておくに越したことはない。第一、装備を船に乗せていたら陸揚げするのに手間がかかる。

そして、装備だけ事前配備して人間だけ飛来する、ということであれば、それはそれで、円滑に実現できるように平素から準備が要る。ドイツで REFORGER 演習をやっていたのと同じように、日本にアメリカ本土 (ハワイでもグアムでもいいけど) から部隊を迅速に送り込んで展開させる演習を。(ただしドイツの場合、もともと冷戦期には 2 個軍団を置いていた点に注意)

突き詰めると、そういうやり方で紛争の抑止ができますか、プレゼンスになりますか、という話。抑止効果を発揮して花火を上げずに済むならば、その方が血が流れずに済むし、国土は荒れないし、結局は余分な費用を使わずに済む。むしろ、「駐留なき安保」なんて空疎な理念を持ち出すことの方が、抑止効果を減退させて相手を喜ばせるだけではないかといいたい。

普天間の一件にしてもそうだけれど、どうも鳩山首相とその周辺の言動を見ていると、あっちの顔もこっちの顔も立てようとして、矛盾を抱え込んで収拾がつかなくなっているように思える。


ついでに揚げ足とりみたいなことを書くと、「駐留なき」ということは恒久的に駐留するのが駄目ってことだろうから、じゃあ TDY (Temporary Duty : 一時派遣任務) はどうなんだと。
もっとも、それをいいだすと在沖海兵隊の第 3 海兵師団からして、麾下の実戦部隊は本土からのローテーション展開。だから、あれは一時派遣であって駐留ではない、とかいう屁理屈が成り立ちそうではあるけれど。

これはあくまで冗談のレベル。本当は「米軍基地が存在しない状態」といいたいのだと思う。でも、場所は貸さないし平時は来るな、でも有事の時は助けてね、というのはムシが良すぎるというのが常識的判断ではないだろうか ?

ちっとは give & take という言葉の意味を考えていただきたいところ。その上で、たとえば訓練や演習を沖縄以外の地域に分散して負担軽減を図るというのなら、それは納得できる。こちら側の都合だけ、一方的に並べ立てて「先方に理解を求める」なんて話があるもんかと。

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