Opinion : ストレートにいうばかりが能じゃない (2010/2/22)
 

私は野球のことはあまり詳しくないけれど、投手はいつも直球勝負というわけではなくて、状況や作戦に合わせて、配球を考えたり変化球を投げたりするものなのだろう、と理解している。いつも最初から最後まで直球勝負というものではないのだろうと。

と、いきなり場違いな話を書いたのは、例の「聯隊長の訓辞」の話が念頭にあったから。いいたいことがあっても、それを一から十までストレートに口に出すのが正解とは限らないんじゃないだろうかと。

個人的には、「信頼関係というものは、日々の実績の積み重ねによってのみ実現できるものである。そのことを念頭に置いて演習に取り組んでもらいたい」で止めておけば良かったのに、と思った。そこまでいえば、例の "trust me" 発言のことを承知していれば「ああ、アレか」ということになって、意図は通じただろうに、と。


"空幕長論文騒動" のときにも同じようなことを書いた記憶があるけれど、何かと言動に目をつけられやすく、何かあればダボハゼのように食いついて物言いをつける人がいる立場の人は、発言に気をつけないと。

つまり、ストレートに、露骨にモノをいうだけが能ではなくて、婉曲話法や暗喩なども駆使して、具体的にそれとはいわなくても、聞き手が「ああ、あれの件か」と分かるような言い方をする工夫も必要なのではないかと。

本来なら失言とはいえないような話でも、針小棒大に言いふらされたり、一部分だけをトリミングされたりして、結果的に失言に仕立て上げられてしまうことがある。あと、つい調子に乗って、余計なことまで発言してしまい、要らぬ言質を取られてしまうこともある。

そういう事態を避ける配慮は、どんなポジションにいても、程度の差はあれ必要ではないのかなあと。特に、相手が最初から先入観を持って話を聞きに来ている場合とか、すでに決まっている結論を補強するための話を求められている場合とか、あるいは隙あらば "失言" をつかまえてやろうと狙われている場合には。

そういう意味では、アメリカの役所の高官や閣僚は大変だと思う。何かというと議会に呼ばれて証言を求められ、そこで迂闊なことをいうと後々まで尾を引いてしまう。たとえば、何か装備開発プログラムの責任者を務めている人が「実は不具合がホンダララ」なんてことを口走ったら、最悪の場合はプログラムそのものがお取りつぶしに遭うかも知れない。もっとも、迂闊な発言が怪我の元というのは、呼びつける議員の側にもいえることではあるけれど。

ともあれ、こういう環境で鍛えられた人は、自然と、当たり障りのない発言で相手を煙に巻く (え ?) テクニックを身につけていくものなのかも知れない。

そういう観点からすると、日本では比較的脇が甘い人が多いというか、ついサービス精神を発揮して要らんことまで口走るというか、そんな傾向が目立つような気がする。その結果、「失言騒動」とか「発言がぶれる」とかなんとか、叩かれる原因を作って自ら墓穴を掘る格好になってしまう。


ストレートにモノをいうばかりが能ではないというのは、たとえば外交がらみの発言なんかについてもいえる話。相手国の言動・行状が気に入らないからといって、直ちに脊髄反射して攻撃的な言動をするのは、威勢が良く見えてウケそうではある。でも、それで望ましい結果につながるかというと別問題。

ときには、攻撃的に出たいところでグッとこらえてみたり、わざと婉曲話法を使ってみたり、といった具合にさまざまな手法を使い分けることができないと、外交はできないと思う。気に入らないからといって直ちに喧嘩腰になれば、却って話がこじれる場合もあるだろうし、最悪の場合には戦争になってしまう。ときには「言外のメッセージを伝える」ことだって必要だろうに。

だから、何か事件があったときに総理大臣でも大統領でも大臣でも、「何を煮え切らない発言を」と思ったら、ちょっと待って欲しい。本当に煮え切らない場合もあれば、わざと煮え切らない発言をしている可能性もあるだろうから。核燃料濃縮疑惑の渦中にある某国の大統領みたいに、強気一辺倒で攻撃的なレトリックばかりを列挙するのが正解とはいえない。

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