Opinion : まずは長期的防衛産業政策の策定が先 (2010/4/5)
 

先日、XC-2 の納入式典に出席した北沢防衛相が、「防衛省が開発した航空機の民間転用を推進する」と発言した由。

それで生産機数が増えてコストダウンや産業基盤の維持につながれば、それ自体はおおいに結構な話。ただ、「高速性能という売りがあるから売れるんじゃね ?」なんていう類の発言をネット上で見ると、「ちょっと待った」と袖を引っ張りたくなる。


以前にも似たようなことを書いたけれども、なにも軍用機に限らずその他の商品も含めて、「性能が優れているから売れる」「技術的に優れているから売れる」とかいう単純な話にはならない。

たとえば家電製品でもデジタル製品でもクルマでも、買った後で修理などのサポートをちゃんとしてくれるメーカーの方が安心できるし、そういう保証がないメーカーでは安心して手を出せない。実際、販売不振に耐えかねて日本市場から手を引いてしまった自動車メーカーがあった。放り出されたユーザーはどうすれば ?

ましてや、モノが航空機となれば、売ったら売りっぱなしで済む種類の商品じゃない。輸送機だろうが戦闘機だろうが、他国への輸出が実現したときの発表や取引内容についてちょっと調べてみればお分かりの通り。機体だけではなくて、スペアパーツも、補修用パーツも、訓練機材も、地上支援機材も、搭乗員の訓練も、そこで使用するマニュアルも、そして納入後の整備・サポート業務も、全部ひっくるめてワンセット。

つまり、最初に納入した時点で完結する話ではなくて、その後のサポート体制を長期的に維持できるという保証ができなければ、航空機商売はできない。実際、F-X について「ライセンス生産が必要」と主張する人はたいてい、「FMS だとスペアパーツの供給が滞って稼働率が落ちる」とかいう類の話を持ち出す。

あの、それって、こっちから機体を売るときにも適用される話なんですけれど。

つまり、最初に性能や価格で有利な条件を提示できても、後になって「サポート体制が維持できなくなりました」「スペアパーツはもう作っていません」「政府の方針が変わって、スペアパーツの輸出ができなくなりました」なんてことになったら、お話にならない。そういう事態を引き起こさないという安心感、信頼感を相手に与えることができなければ、いくら必死になって売り込みに行っても、後ろから足を引っ張られるようなもの。

つまり、主契約社だけでなく、その下のサプライヤー各社や政府までひっくるめて、総合的にコミットメントしますよ、長期的に面倒を見られる体制を作りますよ、という意志を明確に表示しないことには、どんなにいい機体ができても、それを売るのは難しい。

そういえば。
F-X 問題に絡んで「戦闘機の開発・生産基盤を維持するためにライセンス生産が云々」という論陣を張る人はよくいる。でも、仮に今の F-X でライセンス生産によって問題を解決できたとしても、生産が終息する何年か先には、また同じことの繰り返しになるってことを忘れちゃいませんか。

そこで同じドタバタを繰り返さないためには、どうすればいいのか、という話。


となると、単に機体の調達を長期的に継続するとか、輸出によって販路を広げるとかいう説明でメーカーを引き留めようとしても、足りない部分があると思う。必要なのは、国を挙げての長期的な防衛産業政策。

つまり、今後の数年程度とかいう短いスパンではなくて、10 年・20 年先まで視野に入れて、装備調達方針、その背景となる国防戦略、武器輸出三原則みたいな対外問題、そういったものをひっくるめたロードマップを作らないと。そして、

  • どういった分野の産業基盤を維持するのか
  • どの分野は輸入でもよいと割り切るのか
  • 産業基盤を維持すると決めたときに、どういう形でそれを実行に移すのか
  • どの分野なら、政治的制約や競争力の問題をクリアして対外輸出できるのか
  • 輸出に際しての許可・不許可や輸出管理制度の問題はどうするのか
  • 他国の企業と連携することはできるのか、できるとすればどういう形で
といったことを「産業戦略」としてまとめて、国が業界に対して「こういう風に考えています。ロードマップはこうです。だから、安心してこの商売をできます」と示す必要があるのでは。

そうやって見通しが立つ状況になれば、メーカーとしても事業を継続する腹を固めやすくなるし、必要な投資、あるいは人材の確保も進められる。いつ、政府の都合で仕事をちょん切られるか分からない状況では、先の見通しが立たないから長期的なコミットメントも成り立たない。

多分、その長期的な防衛産業政策をまとめるには、防衛省だけでなんとかしようとしても難しい。少なくとも、財務省 (おカネを出す立場)・経済産業省 (産業界全般をみる立場)・外務省 (他国との関わりについて考慮する立場) が関わる必要があるはず。そうやって省庁横断的に課題と解決策をまとめなければ、信頼できる政策がまとまらない。

もちろん、政権交代したからといって卓袱台返しをするようでは話にならないので、政界のサポートも必要。要は、国を挙げて「この業界に対して責任を持ちます」という枠組みを作ることが必要という話。

「○○を輸出したい」とか「武器輸出三原則の緩和」とかいう個別の話だけではなくて、そのバックボーンとなる総合的な大戦略をまとめないことには、メーカーは安心してついて行くことができないし、結果として、売れるはずのものも売れなくなるのではないかと心配になる。

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