Opinion : 平時とピーク時 (2010/4/19)
 

普天間代替基地問題について取り上げようとすると、米海兵隊が沖縄に駐留する必要性について言及しなければならない。それについての私の考え方については、以前にも書いたから繰り返さない。

一方では、「海兵隊を沖縄に置く必然性がない」という結論をひねり出すために、都合の良さそうな話を拾い集めて切り貼りする電波芸人が続出しているのは面白い。
その電波芸人諸氏が飛びついたネタのひとつに、在沖海兵隊の頭数がある。つまり「18,000 名」という数字の真贋という話。「海外派遣されているため、実際に沖縄に駐留している人数は 18,000 名もいない。18,000 名という数字は嘘っぱちで云々」といった具合。


さあ、ここで問題です。軍隊の人員、装備、あるいはインフラの規模って、平時の状況だけで判断していい組織でしょうか。もちろん否。

たとえば、戦時に本国の部隊 (いわゆる force provider) から部隊を "チョップ" してきて戦力をビルドアップするために、平時には司令部組織と幕僚と管理部門の要員だけを用意しておく、という組織の作り方がある。

つまり、受け皿だけ作って、中身は必要に応じて持ってくるというやり方。戦時に必要と考えられる規模の部隊を平時から維持するのが難しいときなどに、こういう手を使う。いわゆる force user のことで、米中央軍が典型例。

平時に「これって無駄じゃねぇの」といいたくなるような充実したインフラを整備しておいたら、いざ花火が上がったときに満杯になってしまい、意図した通りの威力を発揮した、なんていう事例もある。湾岸戦争のときの、ペルシア湾岸諸国における空軍基地がそれ。

それでも、インフラがそれなりに充実していたのは空軍基地と一部の港湾施設ぐらいのもので、多国籍軍が 50 万人も展開したら、その兵士達のために食う寝るところに住むところを確保するため、兵站要員が大童になり、札束を抱えて走り回ったのは有名な話。

在沖海兵隊にも、似たようなところがある。そもそも、基幹となる部隊は「第 3 海兵師団」だが、師団という看板を掲げているということは、いざというときには師団規模まで戦力をビルドアップする可能性を考慮している、と解釈できる。ちなみに、米海兵隊の 1 個師団が定数をフルに満たすと、頭数は 15,000 名を超える。

有事に師団規模までビルドアップする可能性を考慮しているからこそ、受け皿として師団本部を置く。そこまで大掛かりにしないつもりなら、何も師団本部でなくても、旅団、あるいは聯隊レベルでもいいはず。

だから、平時の頭数ではなく有事の最大キャパシティを考慮に入れれば、18,000 名という数字は嘘っぱちだなんていえない。それを「平時にこれだけの頭数しかいないから…」とか「戦地に出ている部隊がいるから、実際に駐留しているのは…」なんて話にすり替えるのは、まさに詭弁。

もっとも在日米軍の場合、force user と force provider の両方をやっている部分があるように見受けられるので、話がややこしい。


いきなり話は変わるけれども、ピーク時とそうでないときの波動が激しく、ピーク時に合わせてインフラを確保している事例は、なにも海兵隊でなくても、もっと身近なところにある。たとえば西武球場前の駅がそれ。

普段は出入りする人が少なく、長大なホームを何本も抱えていても、それこそ無駄というもの。でも、西武ドームで野球の試合があり、万単位の人が押し寄せると、その多数のホームと線路がフル稼働して観客をさばくことになる。まさに、ピーク時を想定してインフラを用意しておかなければならない典型例。いや、インフラだけじゃなくて車両にも同じことがいえるのだけれど。

西武球場前ほど極端でなくても、京王の府中競馬正門前だって事情は似たり寄ったり。もっともこちらは、閑散時のヒマぶりを逆手にとって ドラマ・CM・映画などの撮影に貸す、なんてことをやっているけれど。

そもそも日本の鉄道はたいてい、朝と夕方の通勤・通学ラッシュに極端なピークが来て、それ以外はガクッと需要が減る場合が多い。だから、「無駄じゃねぇの」と思えそうな長大なホーム、あるいは多数の車両が、ラッシュ時にはピーク需要に合わせてフル稼働、なんて話はなんぼでもある。首都圏以上に、中京圏や関西圏ではその辺の落差が激しいと思うけれど、どうだろうか。

それを、日中閑散時の状況だけ見て論評するのは、大間違いのこんこんちき。在沖海兵隊の頭数をめぐる議論にも、同じことがいえるのでは ?

そういえば、父方の祖父母が生前に暮らしていた家では、普段は 2-3 人ぐらいしかいないから、部屋も布団も余りまくっていた。でも、盆休みや年末年始に一族が集結すると、部屋も布団もフル稼働。これだって、ピーク時と平時の落差が激しい一例といえる。捜せば他にも、似たような話はたくさんあるはずだ。

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