Opinion : リソースの配分 (2010/6/7)
 

先日、「海軍工員記」(光人社 NF 文庫) という本を読んだ。著者は太平洋戦争中、徴用されて佐世保海軍工廠で働いていた由。

海軍工廠における仕事の話、特に損傷したスクリューの見取りを行う話が、なかなか興味深かった。その件もさることながら、この本で印象的だった話がひとつあって、それが「大量の生徒が勤労動員されてきたのに、担当させる仕事がなかった」という話。

これが佐世保海軍工廠の特定部門に限定される話なのか、それとも佐世保海軍工廠全体に共通する話なのか、はたまた全国ネットの話なのかは、この本だけでは分からない。ただ、現実に「人手が足りないわけではない部門に、大量の動員学徒を配属してしまい、結果として無駄につながってしまった」事例があったという話にはなる。ううむ。


人手もカネでもモノでも手間でも、リソースが限られているときには、それをいかにして有効活用するかを考えないといけない。大量のリソースを投入したのに、それに見合った成果が得られないのでは無駄になる。逆に、投入するリソースが少なくても、それに見合ったリターンは得られる、ということもある。毎度の、費用対効果の問題。

学徒動員の場合、少なくとも頭数を揃えることはできる。でも、それまで学窓にいた者をいきなり工場に放り込んで、いきなりパッと製品を作れるかというと、それは難しい。誰だって最初は初心者、慣れるまでは学習期間が必要になる。そこでいきなり、高い工作精度を要求されるエンジンなんか作らせたら、不良品の山になる。

そうなると、熟練工を徴兵して戦場に送り、穴埋めに動員学徒を工場に入れても、結果としては生産性が下がってしまう可能性が高く、それは上手なリソースの使い方とはいえない。私は以前から「太平洋戦争はマネージメントの敗北でもある」といっていたけれど、それはこういう意味を含む話。

まして、既存の人員で用が足りているところに素人をワッと配属しても、「海軍工員記」にもあったように、その配属された新人の教育に人手をとられる。ヘタをすると、人手は増えたのに、却って業務のアウトプットが悪化してしまう。

もっとも、著者の森岡氏がいうように、学徒動員を工廠ではなく農村に送れば済むかというと、そうともいいきれない。農業だって、慣れが要るのは同じことだろうから。学徒動員で戦場に送るにしても、それに合わせて合理的かつ有効な速成教育をやらないと、効果を発揮しきれないのではないかと思える。

この手の話を一般化すると、「足りないリソース」と「供給可能なリソース」のマッチングという話になるのだろうか。両者がうまく釣り合っていれば、徴用とかなんとか手段はいろいろあるものの、リソースが足りないところに適切なりソースを配分できる。でも、両者がミスマッチを起こしていると、単に員数合わせだけやっても、問題の解決にならない。

問題は、ミスマッチが発生していると認識したときに、どう対応するか、かもしれない。ミスマッチを解消しようとするのはひとつの手で、足りない分野に対応できる人材を確保するために教育・訓練を促進するとかいう話になる。それができない or 間に合わない、あるいはそもそも供給できるリソースの絶対数が足りない、という話になると、根本的に考え方を改めないといけないのでは。

それはたとえば、「国力・人的資源・その他を勘案すると、どう見ても勝てそうにない相手とは、事を構えるのを避ける」という類の話。自分みたいなフリーランス商売でも同じで、自分が持っているリソースではどう見ても手に余る仕事は、無理に安請け合いして引き受けない、なんてことが起きる。その辺の見極め・判断も含めて、リソースの有効利用ということになるのかも。


あと、供給可能なリソースがあるときに、それをどこにどれだけ配分するか、という優先度の話もある。国の予算配分だってそうだし、個人でもカネ・時間・手間といったりソースを何にどれだけ回すかというところで、同じ課題にぶち当たる。

リターンを生まない分野、あるいは不足が生じていない分野にリソースを注ぎ込んでも無駄だし、余分な手間につながりかねない分野にリソースを注ぎ込めば、全体では損失が増える。ただし反対に、ちょっとリソースを注ぎ込むだけで何某かのリターンが見込めるのなら、後々のことを考えるとそれはアリ、ということもあるハズだけれど。

たいていの場合、投入できるリソースは有限だから、「それをもっとも必要としているのはどこか」「リソースの投入によって、もっとも成果が上がるのはどこか」「投入するリソースとリターンのバランスはどうか」を考えながら配分を決める必要がある。すべてを実現しようとして、あるいはすべてを守ろうとしてリソースを総花的にばらまいても、「すべてを守ろうとするものは、すべてを失う」の原則にしたがって総崩れになりそうだし。

と書いた端からこんなことを書くのはアレだけれど、昨日の木更津駐屯地では、あれもこれも撮ろうとして、あっちを向いたりこっちを向いたり。そのせいで落ち着きがなくなり、焦りが出て、結果として手ブレに起因するボツカットが増えたような気がする。まだ修練が足りないなぁ。

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