Opinion : ブラン ニューの重み (2010/7/5)
 

物書き業をやっていると、書籍でも雑誌や Web の記事でも、乱暴に大別すると 2 種類の仕事がある。

ひとつは「ブラン ニューの仕事」。つまり、何もないところから新規にテーマを決めて、構成を考えて、書き上げていく仕事。もうひとつは「エボリューション型の仕事」。つまり、既存の原稿あるいはネタを叩き台にして、足りない部分を補ったり、新しいネタを付け加えたりして書き上げていく、いわば改良版・発展版 (注 : ハッテン場ではない) を生み出す形の仕事。

多分、どこの業界でも似たようなところがあるんじゃないかと思う。もちろん、ブラン ニューの仕事の方がリスクが大きかったり、手間がかかったり、経費がかかったりするけれども、それをやらないと進歩がない。既存の製品やサービスを土台にして小改良するだけだと、いずれは限界が来る。


といった見地から、昨今のウェポン システム開発を見てみると、エボリューション型ばかりが目立つように感じられる。

たとえば、米軍の新型ヘリコプター。UH-60M も SH-60R/S も CH-47F も AH-64D ブロック III も、ドンガラは基本的に既存のものを流用していて、中身を新しくすることで新しい能力や付加価値を生み出そうというもの。たまたま、目についたのでこの分野を引き合いに出したけれども、他の分野でも事情は似たり寄ったり。

民間輸送機の分野でも、B.787 や A350XWB はブラン ニューの新規開発だけれど、既存モデルをベースにして発展させる形のモデルもそれなりにある。ヘリコプターの業界もしかり。乗用車だと、プラットフォームやエンジンから新規開発するモデルチェンジと、それらをキャリーオーバーするモデルチェンジがある。

問題は「エボリューションで済んでいる」と「エボリューションで済ませている」の間の、小さいようで大きな断絶。もちろん、既存のもので中身を新しくしようと考えて、どこかをいじれば、玉突き式にいろいろと影響が出てくる。結果的に、新規に設計するのと同じぐらいの手間がかかっているし、同じなのは見た目だけ、という言い分は出てきそう。

ただ、コンセプトとか基本的なレイアウトとかいったところから新しく生み出すのと、そういう土台の部分で既製品を流用するのとでは、やはり違いがあるのではないかなあ、という思いは拭えない。

もちろん、何もないところから新しいものを生み出す方がリスキーで、それは冒頭でも書いた。それでも、それをやらないとアウトプットに関する進歩がないだけでなく、新しいモノやサービスを生み出すスキルが錆び付くんじゃないかと思う。

たとえば技術者稼業は、極端なことをいえば「修羅場をくぐってナンボ」みたいなところがある。一度も失敗したことがないと、どこをどうすれば失敗するのかが分からない。その結果として、さらなる大失敗につながる原因を残してしまうことになりがち。なぜかというと、リスク管理に必要な経験や先読みの能力に違いが出てくるから。

これは物書き業も同じで、小さな失敗でもいいから失敗を経験しているのと、何の失敗も知らないのとでは (そんな同業者がいるかというと疑わしいけど)、後者の方が危なっかしい。たとえば、「落とし」たり「飛ばし」たりしそうになって、そこからリカバリーした経験があれば、次に同じ失敗を繰り返さないためのデータができる。

私は原稿を「落とし」たり「飛ばし」たりしないのが数少ない自慢の種だけれども、もちろん、リスク管理のためのデータと経験を蓄積しているからいえること。決して根拠なき自慢ではない… つもり。


ウェポン システムや航空機の開発プログラムで、スケジュール遅延やコスト超過が常態化している一因には、もちろん見積もりの甘さとかプログラム管理の問題とかいう理由もあるのだろうけれど、それらを突き詰めると、一因として修羅場経験の不足が挙げられるのではないかな、と思った。技術的な話もさることながら、計画段階やプログラムの進行管理では特に、過去に修羅場を潜った経験があるのとないのとでは、大差が付くのでは ?

で、どうして経験不足になるかといえば、新規開発の機会が減っている事情が無関係、なんてことはあり得ない。ただ、予算やスケジュールのことを考えると、毎度毎度、新規開発するのは難しいのも事実なので、「新規開発」と「既存品の改良」を交互に回していければ理想的。実際にはそんな簡単な話ではないけれども、安直に (?) 既存品の改良にばかり走っていると、将来になってツケを払わされるのではないかと。

とはいうものの、ことに航空機やウェポン システムの開発では大規模化・複雑化が進んでいるから、一ヶ国ですべて面倒をみるのは難しくなってきているのが事実。そうなると、国際共同開発に向けて舵を切るのは避けられないのではないかと思うのだが、いかがだろうか。(ただし、船頭が多すぎると厄介なことになるので、そこをどうするかが難しいところ)

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