Opinion : 見えない性能・表に出にくい性能 (2010/7/19)
 

デジ一眼を扱っていると見苦しくて仕方ないと思うのが、それぞれのメーカーのユーザー同士が展開する罵り合い。いや、本当にユーザーなのかどうかは知らないけれど。

つまり、いちいち競合製品にケチを付けないと納得できないってどうなのよ、という話。自分が使っている製品が、自分が必要とする機能・性能を満たしていればそれでいいだろ、と思うのは、どちらかというと珍しい部類なのか。

その罵り合い、突き詰めれば「優越の主張」になるのだけれど、カタログ スペック、それも分かりやすい・目立ちやすい一部の項目の比較をやられても、なんか釈然としない。もっとも、表立って明確になっていない部分や、数値化・定量化が難しい部分の比較が難しいのも事実ではあるけれど。


といったところで話が飛んだ先が、戦闘機の優劣論争。分かりやすいスペック項目といえば、最高速度、推力重量比、搭載量、航続性能、レーダーの探知距離、ステルス性の有無、とかいったあたりになるだろうか。

けれども、航続性能はミッション プロファイル次第で大きく変わるものだし、正確なレーダーの探知距離を馬鹿正直に発表しているはずがない。ステルス性だって、対象とする周波数帯や向きまで考慮に入れなきゃ比較にならない。そもそも、以前にもどこかで書いたと思うけれど、兵器の公表スペックなんていうものは、基本的にはゲタを履かせているか三味線をひいているかのどちらか。

それに、先に挙げたような分かりやすい項目は比較論のネタにされやすいけれども、たとえば C4ISR 関連の機能・能力を引き合いに出している人は、自分が見聞する範囲では滅多に見かけない。そりゃ確かに、分かりにくいしマル秘が多い分野ではあるけれども、だからといって重要性が低いわけでもない。

どんなに加速性能が優れた戦闘機、搭載量が多い戦闘機、機動性が優れた戦闘機でも、正しいタイミングで正しい場所にいなければ意味がない。それには C4ISR 能力がモノをいう。ステルス機ならなおのこと、外部の情報源を駆使する必要性が高まるだろうし。優れた空戦性能を備えていても、それを発揮できるのはその後の話。

戦車の火力とか防禦力とかいう話も同じ。それらがモノをいうのは交戦が始まった後の話で、まずは正しいタイミングで正しい場所に進出して正しい相手に狙いをつけなければ、火力や防禦力を発揮する場面に至らない。

とどのつまりは、どんなに強力な「拳骨」であっても、それを誰に対して、どういう形で、どのタイミングでぶち込むかが重要なので、強力な「拳骨」が存在するだけで戦に勝てる訳じゃない、っていう話。

なんだけれども、そういう話をすっ飛ばして優劣論争を展開されても、ちょっとなあ。というのが正直なところ。センサー能力にしても、プラットフォームが持つ自前のセンサーだけですべて済ませる時代ではないので、行き着くところはネットワーク能力・通信能力の問題だというのに。

艦艇の一般公開で、艦橋を公開したり、ミサイル発射器を動かして見せたり、艦載砲の中を開けてみせることがあったり、ときには CIC まで見せたりすることがあっても、通信室だけは決して公開しない。それがなぜなのかということを、ちょっとは考えてみたらどうだろうと思う。C4ISR とか、それによって構成するシステム (さらには、System of Systems も含む) 全体が、実は極めて重要なのだという認識が欠けていやしないかと。

あと、モノが完成すれば即・実戦投入が可能っていう訳ではない、という話もある。運用試験・評価試験をやって不具合をいぶりだし、それを基にして「教科書」を書いて、実際に運用・整備にあたる人材を育成して、それでやっとこさ IOC (Initial Operational Capability) 達成なのに、そういう話に目を向ける人も多くない。

ちょうど、これを書いているときに「F-2 の生産継続か ?」という新聞記事が出てきたけれども、実は F-2 生産継続の目立たないメリットがこれ。戦力化のための手間と時間がかからないから、戦力の純減 & 能力ギャップという問題を回避しやすいメリットがある。んだけれども、(省の当事者は別として) そういう方向に目を向ける人って少なくないだろうかと。

あと、機種が増えなければ、サポート体制やスペアパーツや減耗予備機の在庫といったところでも効いてくるので、そこまで計算に入れてトータルのコストを考えないと。機体を製造するときのイニシャルコストだけじゃなくて。


突き詰めると、カタログ スペックには現れにくい部分の "性能" だって無視できないし、実はそっちの方が重要なこともあるのではないか、という話。ところが巷の現実では、カタログ スペック的な話を基準にした優劣論争だけで終わってしまっている傾向が強くないかと (まさか当事者は、そんなことはないだろうけれども)。

で、それをベースにして「自分が贔屓する○○は、競合する△△と比べて、必ず優れていなければならない」という命題を達成、それによって個人的なプライドを満足させたり、優越感に浸ったりしてない ? なんてことを思った次第。それでいいのかなあ… 趣味でやっているんだから面白ければいい、という見方もあるだろうけれど。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |