Opinion : WikiLeaks.org の文書流出事件で思ったこと (2010/8/2)
 

今週は、例の WikiLeaks.org 経由の文書流出事件について、思ったことをつらつらと書いてみたい。

程度の差はあれ、真実が隠蔽されるとか、公にされるべき事柄がされないとかいう問題が起きることは避けられないので、内部告発やリークを単純に全否定するのは、問題がある。だからこそ、国によっては企業の内部告発者が過度に不利な立場に置かれないように、保護するための法律まで制定している場合がある。秘密情報のリークにも、同様の性質を帯びる事例があることは否定できないので、基本的には同様。

ただし、いずれにしても内部告発やリークには、それをやった本人が所属する組織の不利益になることが多い性質がある。だから、リークすることで得られたメリットと、それに付随するデメリットを天秤にかけて、トータルで見てどうか、という議論は不可避ではあるけれど。


いずれにしても、内部告発やリークが有意であるのは、それまで公にされていなかった「真実」が明るみに出て、それが社会通念上、正義に適うとみなされる場合の話ではないか。一例を挙げると、ベトナム戦争をめぐる「ペンタゴン ペーパーズ」のリークには、そんな性質があったのではないかという話になる。

では、今回の場合はどうかというと、すでにイラクやアフガニスタンで意図した通りの成果が上がっていないだとか、不正が起きているだとか、意図的・偶発的の両方で不祥事が生じたりだとかいう話は、もうさんざん出てきている。GAO の報告書を見れば、その手の話はワラワラと出てくる。米議会調査部門 (CRS) でも、捜せば何か出てくるかも。

そんな調子だから、「すべて順調」とされていたものが、今回の文書リークによっていきなり反転したとはいえない。そういう意味では、文書リークによって誰が得したんだ、といわれても仕方ない部分がある。

Robert M.Gates 米国防長官らは、「情報源に関する生の情報が公になったことで、情報源が危険にさらされた」「現場の兵士が危険にさらされた」「聯合軍の戦術・手順などが敵に知れてしまった」等の非難をしている。立場上、非難発言に終始するのが当然ということを割り引いても、この手の言い分に理があるのではないか。

現実問題、すでにネガティブな情報がさんざん出てきている以上、今回の文書リークによって情勢が 180 度ひっくり返ることは考えにくく、そういう意味では「誰得」状態。得したのはタリバンだといわれても仕方がない部分がある。

では、その手のリークを無条件に受け付けるのではなく、情報を暴露することがメリットにつながるのかどうかを判断してから… というのは簡単だけれども、それは何らかの恣意的判断が入り込むことにつながるので、本当に暴露すべき情報をブロックしてしまう事態にもつながりかねないのが難しいところ。

もしもフィルターをかけるとすれば、WikiLeaks.org よりも、そこに文書を流す側なのだろうけれど、それを求めるのも無理がありそう。よくある「答えのない悩み」という話になってしまう。むしろ、この手の話では、分かりやすく単純に一刀両断する人の方が危険。


実のところ、この手の情報リークを受け付ける Web サイトがもっとも効力を発揮するのは、国が国民に伝わる情報を遮断していて、それこそ本当に「真実」が表に出てこない国ではないかと思う。

具体的な国名を挙げるのは差し控えるけれども、独断と偏見に基づく判断基準をひとつ挙げるならば、「情報省」という役所があるような国。いや、正確にいうと、国民に対する情報・思想統制を担当する役所がある国。(たまたま、その手の役所は「情報省」と名乗っていることが多いように思える。統計を取った訳じゃないけど)

そういう国で、国家が総力を挙げて設定している「精神的遮断機」を突き破って真実を暴露するのであれば、それはそれで有意なことだと思う。

だが、既知のネガティブ話を改めて暴露しただけで、むしろ好ましくない副作用の方が多くなってしまったのではないかと思われる今回のリーク事件については、正直いって評価できない。何でもそうだけれど、「秘密の暴露」だけで物事がいい方向に進むわけではないのだから。暴露はあくまで手段、目的を達成するための援護射撃以上にはならない。

こういうことが何度も発生すると、本当に WikiLeaks.org みたいなサイトが必要になったときに機能不全に陥りはしないか、本来の目的から脱線して「秘密文書の暴露で人気を博する」というだけのサイトに変質してしまわないかと、そっちの方が心配になる。現実問題、過激な運動手法や言動で人気を博した個人や組織が、そのまま引っ込みが付かなくなる事例は、すでにいくつも存在しているわけだし。

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