Opinion : 最終目的地と経由地 (2010/8/16)
 

「ブレない」は正義か ? : 山内康一 の「蟷螂 (とうろう) の斧」 (via 障害報告@webry)

確かに、なにも写真の世界に限らずとも「ブレない」は評価されやすい傾向があるし、「初志貫徹」もしかり。ただし一方では、自身の、あるいは周辺の状況が変わって、軌道修正を余儀なくされることもあるのは致し方ない。そこであまりにも「初志貫徹」し過ぎると、却って具合が悪くなることも。

個人個人のモノの見方・感じ方・考え方なんかも、時間が経つと変わってくるのはよくある話。ただし、これの話まで始めると収拾がつかなくなりそうなので、「組織の長」みたいな責任ある立場の人間が、その責任に対してブレるか、ブレないか、というあたりに話を絞って考えてみると。


たとえば会社の経営方針でも、政治家の政策・公約の類でも何でも、場当たり的にコロコロ変わるのはどうかと思う。とはいえ、周囲の状況は変わっていくものだから、時間が経てば変動することがあるのは致し方ない。じゃあ「ブレる」と「ブレない」の違いはどこなんだろ ? というのが、これを書き始めたきっかけ。

まず考えたのは、根本的な理念、あるいは目指すゴールとかいった部分が確定していて、そこに行き着くまでの道程がふらつくというレベルの話なのか。それとも、根本的な理念、あるいは目指すゴールとかいったものが明確になっていない、単なる無定見なのか。という話。

たとえば、「東京から大阪に行きたい」という最終目的さえ明確になっていれば、東海道本線を使おうが、名古屋から関西本線に入ろうが、あるいは岐阜から高山本線〜北陸本線と経由しようが (以下略)、目的地に行き着くことはできる。
対して、行先が決まっていなくて「とりあえず列車に乗っちゃいました〜」というのが、明確になっていないということ。

個々の時点で、目指すべきところが明確でフラフラしていなければ、途中の経由地 (戦術的な意味も含む) が変動しても「ブレはない」といえそう。途中で目指すべきところが変動しても、いったん決めた後で定針すれば、(目的地に関して、よほどトンでもない間違いをしていない限りは) 害は少ないと思う。

ところが、目指すべきところがコロコロ変わったり、目指すべきところと合致していない経由地や戦術が出たり消えたりするのは、「ブレる」なのではないか、なんてことを考えた次第。もっともタチが悪いのは、目指すべきところでも、あるいはそのための経由地や戦術でも、各方面にいい顔をしたいがためにコロコロ変わって一貫性を欠き、押された方向に動いてしまう「便所のドア」。

なんて書いたところで、たまたま昨日は 8 月 15 日。

以前にもどこかで書いたような気がするけれど、「平和」をめぐる議論で話が噛み合わないのは、そもそもの「平和」の定義が食い違っているから。最終目的地が違うのに、手段の是非や妥当性について議論しても、話が噛み合うはずがない。

何でもそうだけれど、まず「目指すべき最終目標」の定義を明確にして意思統一した上で、「それに至るまでの道筋や手段の是非」について議論するようにしないと、話が噛み合わない上に時間のムダではないのかなあ。もっとも、そもそも意思統一できるのか ? という問題が残るにしても。


現実問題として、何事にもトレードオフはつきもの。「あちらを立てればこちらが立たず」的な話はなんぼでもある。だから、目指すべきところが明確でも、途中で軌道修正が必要になる話は珍しくない。

個人的に身近 (?) なところでは、飛行機や艦艇の設計なんかが典型例。要求される機能・性能をすべて実現しようとすれば、どこかで矛盾が出てくるのは避けられないし、予算・人員・技術レベル・インフラなどの制約で、スペックを加減しないといけない部分も出てくる。

そこで、何を残して何を切り捨てるのかが問題。最初に掲げていたコンセプトを台無しにするような判断をやらかしたり、最初に掲げていたコンセプトとはまるで異なることをいい出したり、なんていう事例はいくつもある。その手のトレード スタディは、根本の理念やコンセプトに対する定見の有無が問われる場面。つまり、先にも書いた「目指すべきところ」が明確になっているかどうかという話。

はなはだしきは、開発計画の途中で「これって別の用途にも使えるんじゃないか ?」といって、当初のコンセプトから逸脱してしまう事例。ときには、周囲の状況の変化に恵まれて「瓢箪から駒」的に居場所を確保できる場合もあるけれど、そうならない事例も少なくない。

そういうところでも、「ブレる」「ブレない」あるいは「無定見かどうか」といった話になりそう。いったん当初の目標を達成したところで、さらに別の可能性を見出して、そちらの方向に発展させるのであれば、また話は別だろうけれど。

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