Opinion : 尖閣問題で傷口を広げないために (2010/9/27)
 

先日の「中国の漁船船長を外交関係への配慮で釈放しちゃったよ」事件で、ひとつ強烈な印象を受けたことがある。それは、身辺にいる友人・知人のうち、この手の外交・政治問題について平素はほとんど言及しない人までが、政府 (& 沖縄地検) の対応に怒ってしまっていること。

外交関係に配慮して釈放した、なんて馬鹿正直に (?) 口にしてしまったようだけれども、実は日本国内の反中感情をかき立てる事態につながって、少なくとも国内では逆効果になってしまったかもしれない。

しかも、連れ帰るためにチャーター機を送り込んできたなんて、もうほとんど VIP 扱い。あれって本当に一介の漁船の船長だったのか ? と疑われても、もはや不思議はないかも。


そもそも検察といえば法執行部門の親玉なのであって、法律に照らしてどうか、ということだけ考えて判断するのが筋。外交の観点からいってどうか、というのは外務省や官邸が考えること。その結果として政治判断で「しょうがねぇから釈放するか」となった時点で初めて、それを受けて検察が動くのが筋じゃないかと思う。少なくとも筋論からすれば。

よしんば、そういう形で物事が動いたのだとしても、それを馬鹿正直に公表する必要はない。本当の理由が「外交関係に配慮して、事を荒立てたくない」だったとしても、表向きは「嫌疑が不十分」とか「証拠が不十分」とかなんとか、もっともらしい言い訳をつけないとダメだろ、と考えた次第。なにも、こちらから手の内をさらすことはないのである。

なのに、「日中関係に配慮して…」と馬鹿正直に、しかも官邸や外務省じゃなくて検察の人間が公的な場で発言してしまったのが、今回の一件における最大の問題じゃないかと思う。つまり、「外交関係を荒立てることになる」さらに「日本人を人質 (みたいなものといわざるを得ない) にとる」といった手段で圧力をかければ、あっさりとヘタれる、という悪い前例を作ってしまったのが最大の問題点ということ。

そこで沖縄地検の関係者などに訊いてみたいけれども、他の国の人間が沖縄で犯罪行為をやって捕まって、それを検察が取り調べることになったときに、やっぱり「外交関係に配慮して」放免することになるんだろうか。
どこの国にでも同様の対応をすることになれば、法治国家というより放置国家になってしまう。かといって、同じような事案でも国によって対応を変えれば、「それは何故だ」ということになる。どっちにしても、いい結果にはならない。

そういう意味で、今回の沖縄地検の行動は、あまりにも罪作りだったのではないかと思う次第。せっかく、アメリカが「尖閣諸島も日米安保の対象内」と助け船を出してくれたのに、それを当事者がぶちこわしにしてどうする。

といっても、「俺様国家・中国に対するカウンターバランス」としてアメリカの重みが増してきているのは確かなので、今回の騒動も含めて、もっとも得をしたのはアメリカかも知れない。


とかなんとかいいつつも、これは専門外の人間が思ったままを書き連ねてみただけだから、法律・法執行の専門家から見れば、また違った意見があるかも知れない。それはそれとして、個人的に付け加えたいことがあるとすれば。

おそらく、今後も中国側の行動はエスカレートする可能性が高い。考えられるのは、艦隊が示威行動をするとか、漁船が団体で乗り込んできて領海内で操業するとか、そんなところだろうか。ひょっとすると「尖閣諸島はうちのものだから、うちの法律に従って行動する。日本の法律は適用されない」ぐらいのことを公言するかも知れない。

この手の外交がらみのもめ事で「ま、ここはひとつ穏便に…」とか「こちらが下手に出れば、相手も譲歩してくれるだろう」はないと考えるべき。双方の言い分をめいっぱいぶつけながら現実的な落としどころを探るのが、外交交渉ってものでは ?

ただし、そこでは先に卓袱台をひっくり返した方が負け。相手が先に卓袱台をひっくり返して悪者になってくれれば、こちらの得点になる。こちらが先にぶち切れて卓袱台をひっくり返せば、こちらが悪者になってしまう。もちろん、国内にある中国政府関連施設を襲撃するなんていうのは下策の極み。いちいち激高したり落ち込んだりしないで冷静に。

とりわけ領土問題なんていうのは、永遠にケリがつかない問題の極めつけなのだから、全員が納得する解決策なんてないと思う方がいいと思う。となれば「完全勝利」というものも実現できないので、たとえば「中国に領有権の主張を引っ込めさせる」なんていう非現実的な話ではなくて、「現状をこれ以上悪くしない」ことを考えるのが現実的。

せめてもの挽回策に、「中国は、気に入らないことがあれば人質を取ったり脅しをかけたりして解決するような国であるぞ」というアピールをやってみてもいいかもしれない。特に EU に対して、「こういうことをする国に対して武器禁輸解除をしてもいいのか ?」と話を持ち込み、禁輸を継続するようにアピールするぐらいのことをしてみたらどうだ、なんてことを考えた。

もっとも、フランスの大統領あたりにこんな話をすれば「特殊作戦部隊を送り込んで奪還しろとはいわないにしても、せめてフジタの社員と交換にする、ぐらいの駆け引きはできなかったのか ?」と突っ込まれそうではあるけれど。

あと、今回の件が原因で「日本政府は自分達を護ってくれるのか」という不安感が増大する可能性があるので、政府はそういう不安感を打ち消す手を打たないと、国民がおかしな方向に煽られてエスカレートする危険が増すと思う。

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