Opinion : 尖閣諸島に自衛隊配備 ? (2010/10/11)
 

例の、尖閣諸島での一件に関連して、「尖閣諸島に自衛隊を常駐させろ」とか「自衛隊でなくても、国の機関を何か置いておくべき」といった類の主張が聞かれる。

すでに、私の blog のコメント欄でもいろいろやりとりしている話ではあるけれど、この件について、改めて考えをまとめてみようと思った次第。


そもそも、自衛隊でもその他の国の機関でも、そこに誰かを常駐させることに何を期待するのか、というのが根本的な問題になると思う。確実にいえるのは、「ここは日本が押さえている土地である」と "旗を立てる" (show the flag… とは、ちと違うか) 効果。竹島のことを見てみても明白なように、そういう効果は確かにありそう。

では、「抑止力としての自衛隊配備」はどうか。

軍事力が抑止力として機能するには、相手に「手を出せば容易ならざる事態になる」あるいは「手を出しても勝ち目がない」と思わせる必要がある。戦略核兵器同士の相互確証破壊なんていうのは、その極めつけ。

そこまで極端な話でなくても、陸・海・空の通常部隊を配備して抑止効果を発揮させるのは当たり前の話で、いちいち事例を引き合いに出すまでもなさそう。ただし、その対象が本国から離れた大海中の島嶼ということになると、それなりの規模の部隊・装備・補給物資を配備して維持するための負担は馬鹿にならない。

たとえばの話、5,000 名ぐらいの部隊を駐留させれば、糧食だけでも 1 日に 15,000 食分を供給する必要がある。1 人 1 食 250g の米を消費するとして、米の消費が日量 3.75t。1 ヶ月で 112.5t。それ以外にもいろいろな補給物資が必要だし、それより何より水の確保はどうするんだという問題もある。

では尖閣諸島はどうかという話になるのだけれど、見たところでは平地が少なそうだ。そもそも、大規模な部隊を置けるほど面積がなさそうだし、港湾施設の整備ができるかどうかという問題もある。そういった課題を実現したらしたで、どれだけの部隊を置けば抑止力を発揮できるのか、それを維持するためにどれだけの負担が生じるのか、という課題が生じる。

あと、軍や民間人が居住していれば抑止効果になるのか ? という問題もある。フォークランド紛争みたいに、小規模とはいえ軍人や民間人がいて、さらに哨戒艦が周辺を遊弋していたにもかかわらず、アルゼンチン軍が乗り込んできて占領してしまった事例もある。

となると、小規模な部隊を置いていても抑止効果になるかどうか怪しいし、民間人の居住ならさらに効果は薄そう。相手が問題の島嶼を獲る気になってしまえば、結局は乗り込んできてしまうのではないかという方向に考えが傾いてきている。

それであれば、今回の漁船騒動みたいな事案に際して明確な意思表示を図るために巡視船を常駐させて警戒航行させるとか、もしもまかり間違って上陸部隊 (尖閣に限定しない一般論としては、空挺作戦やヘリボーン作戦も考えられるかも ?) を阻止するための戦力を整備しておくとかいう対処の方が、現実的ではないかと考えた次第。

それに、こちらが部隊の送り込みや維持に苦労する可能性が高い場所であれば、それは敵軍にとっても同じこと。部隊を上陸はさせたものの、後続補給が続かないということになれば、太平洋戦争で太平洋上の島々などに置き去りにされた日本軍と同じことになってしまう。つまり、上陸した敵軍を海空から雪隠詰めにしてしまった上で海空から叩く方がマシかも知れないなあと。


ただし、ここまで書いた話はあくまで、現時点で人が住んでいない尖閣諸島を前提にした話。すでにまとまった数の住民がいて、しかも地政学的に重要な位置を占めている島嶼については、また話が違う。そこに住んでいる住民に安心感を与えられるような方策を考えないといけない。

ただし、そのための解が直ちに「大規模な陸上戦闘部隊の常駐」になるかどうかは分からない。警備・警戒のための陸上部隊ぐらいは置かなければならないにしても、可能であれば敵軍を上陸させないことが先決で、それは基本的にシーパワーやエアパワーの仕事。広い海の中にぽつんと存在する島嶼では、獲るにも護るにも、後方の策源地と島嶼を結ぶ交通線の確保が必須なわけだから。

ただし、それだけで 100% 確実に阻止できるとは断言できないから、敵軍が乗り込んできてしまった事態に備えて奪還作戦を行う体制も整える必要があり、それはランドパワーの仕事。ということで陸自が西普連を編成したのではないかと思うのだけれど、この認識、間違ってるかしらん ?

なんにしても、領土問題があるからといって脊髄反射的に自衛隊配備… でいいのかなあ、と問題提起してみたかった次第。

なお、奪還作戦に際しては対地攻撃のための打撃力やエアカバーの手段が必要になるはずで、それには… というところの話は、先日に行った某誌向けの対談で言及したので、編集段階で削られなければ、いずれ店頭に並ぶはず。しばしお待ちを。

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