Opinion : 「不当な反乱」と「正当な反乱」の境界線 (2010/11/8)
 

例の、海上保安庁のビデオ流出事件。ネット上での反応を見る限り、賛否両論が入り乱れてワヤワヤである。

ざっと見たところでは、「そもそもビデオを公開しなかった民主党政府が悪い。それを流出させたのは正当な行為だし、国民の支持もある」という意見と、「事情はどうあれ、国家公務員が非公開情報を流出させたのであれば違法行為であり、許容できない」の二種類に大別できそうだ。で、前者は「ここで中国の言い分をつぶしておかないと尖閣諸島を盗られる」「ここで真実を主張しておかなければ、中国の言いなりになってしまう」とかいう話に持っていくパターンが多い模様。

確かに、口頭でこちらの言い分を並べ立てるだけでなく、さらに動画という証拠を突きつければ説得力は増す。ただし、動画でも静止画でも作成・編集を (ある程度は) 自由に行える昨今、単に動画を公開しただけで、そこに記録されている内容が真実であると断言できるかというと、ちょっと弱い部分があるかも知れない。「そのビデオは捏造だ」と言い返された場合に、どう反論するか。

もっとも後者についても、「心情的には理解できるが、国家公務員が職務上知り得た情報を外部に勝手に漏らすのはダメなのだから、仕方ない」という、一種の股裂き状態になっている部分がある。個人的にも、その心情はよく理解できる。

ただ、「心情は理解できる」とか「情において忍びない」とか「国民の支持があるのだから正当化される」なんていっていたら、収拾がつかなくなってしまうのは事実。そんな考え方が罷り通ったら恣意的な判断が横行して、国民の支持さえあれば何でもあり、ということになりかねない。それはまずい。


そもそも、「中国に気を遣ってばかりで、日本の立場や利益はどうなるんだ」なんて文句をつけられるような政権を選挙で選んだのは日本の有権者なのだから、元を辿れば今回の一件、有権者に責任が行き着く側面がある。それを棚に上げて与党の批判ばかりするのはどうなのか、という話はともかく。

「法治国家である以上、法律で定められた規定に反した者は法律に基づいて処罰しなければならない」というのは正論。では、「悪法も法なり」で従わなければならないのか、政府などの上層部が無茶苦茶をやっているときに、下の人間が違法を承知で、それを阻止しようとするのはいけないのか、という議論が出てくるのはもっともな話。そこで詰まってしまった。

たとえばヒトラー爆殺未遂事件なんていうのがあるけれども、あれは単純な違法行為として処罰すれば済む話なのか。もうちょっと身近なところでは、企業・官庁などにおける内部告発の類もダメなのか。という話になってしまうから。
確かに、その手の話を一律に「違法行為だからダメ」といって切り捨てると、それはそれで問題がありそう。似たような話で、独裁政権や抑圧的な政権を外部から力ずくでひっくり返すのはダメなのか、という類の議論もある。

となると、「正当な反乱」と「正当とはいえない反乱」があって、両者の間には何らかの、境界線を定義できるような閾値があるのではないか、なんてことを考えてみた。

そういう観点から考えてみると、「明確に弾圧的・抑圧的ととれる行為があった」とか、「社会通念に照らして、明らかに "人の道" に反している行為があった」とかいう話であれば、内部告発や反乱行為が許容される場面があるのではないか、という考えに行き着いた次第。たとえば、法律違反の有毒物質を垂れ流しているのを隠蔽していたとか、先にちょっと触れた独裁政権・抑圧的な政権の話とか。

もちろん、この手の話にしても、「弾圧的・抑圧的」と判断する基準、あるいは「社会通念」とか「人の道」とかいう曖昧模糊とした部分があるので、これだけで明確な線引きができるわけではないけれど。


では、今回のビデオ流出の話、あるいはその原因であるところの尖閣諸島の問題 (と、それをめぐる政権与党の対応の問題) についてはどうかという話。少なくとも、ビデオを公開しないこと、あるいは尖閣諸島問題で日本政府の対応がどうも腰が引けている、といわれても仕方がない状況がある。

ただしそれは「抑圧的」とか「人の道に反している」とかいう類の話とはいえないと思う。そうではなくて、現政権のやり方が日本国の、あるいは日本国で暮らす国民の利益になっているのかどうか、という議論ではないのかなあと。

つまり、「人道の問題」ではなくて「国益・利益が絡む問題」において、その国益なり利益なりを損ねるとみられる行為に対する反乱が許容されるのか、そもそも国益なり利益なりが存在するのかどうなのか、といった観点から議論してみる必要があるのではないかなと。

今回の事案についていえば、まずは「規定違反を犯してでもやらなければならないほど、日本という国、あるいは日本に暮らす人々の生命を危機に直面させるような事態だったか」という話と、「ビデオが流出したことによるメリット vs ビデオが流出したことによるデメリット」について議論してベースラインを作らないと、いつになっても水掛け論になってしまうのではないかと。

なんてことを書いてみたのは、どうもこう、いろいろな話がごっちゃになって話を複雑にしていると感じたせい。個人的には、まだ結論は出し切れていないので、ここで結論を書くことはしないけれど、とりあえず頭の中で整理できたことだけ書いてみたところで、おしまい。

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