Opinion : 看板と本質 (2010/11/22)
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なんだか先週は、「暴力装置」の一件のせいか、「言葉」をめぐる話題が目立ったように感じられる。その話だけでなく、自衛隊の階級呼称などに関する話もあったし。
組織の名称でも肩書きでも、意味が同じでもどういう表記をするかで受け止められ方が違ってくることは確かにあるから、どういう看板を掲げるかというのは案外と重要な問題。それは確かにそうなのだけれど、看板を掛け替えたからといって中身が即座に変わるわけではない。逆に、看板を架け替えたからといって、本質的な内容を隠蔽できるとは限らない。
そのせいもあってか、「暴力装置」の件にしても「階級呼称」の件にしても、なんか違和感を感じる議論が目立つように思えた。
たとえば、「自衛隊の組織名称を初めとする用語を旧軍当時のものに戻そうとしているのが怪しからん」と問題視している (らしい) 人がいる。でも、「普通科」が「歩兵科」、「施設科」が「工兵科」になったからといって、即座に陸上自衛隊の体質が帝国陸軍と同じになる、なんて考えているのだとしたら、それこそナンセンスの極み。看板を掛け替えただけで中身や本質的な部分まで変わる訳じゃあない。
だいたい、今だって「普通科」の英語表記は Infantry だし、「護衛艦」は Destroyer である (爆笑)。ついでに書くならば、先日に航空自衛隊の高射部隊がアメリカまで Patriot の実射訓練に行った件について取り上げた Raytheon のプレスリリースでは、見出しに "Japanese Troops Successful in Patriot Test Firings" と書いていた (太字筆者)。
そんな調子だから、日本国内でどういう呼称を使っていようが、外国からは軍隊としてみられているのが実情なんじゃないかと。でも、それだけの理由で「自衛隊が旧軍回帰」なんてことをいうスットコドッコイな人は、(そのことを政治的に利用しようとする一部の人を除いて) 多数派とはいえない。なんて書くと、「一部の人」は真っ赤になって怒り出しそうだけれど。
かかる状況下で、日本語表記を英語表記に揃えて一般的な内容にするだけで、体質や本質が変わると本気で信じ込んでいるのなら、大笑いもいいところ。そこまでいうのであれば、「普通科〜」じゃなくて「自動車化狙撃〜」に看板を掛け替えたら、陸上自衛隊は労農赤軍と化すんだろうか。ばかばかしい。
なんてことを書いておちょくると、「日本の戦前回帰を目指す企みの一環だから阻止すべき」なんて反論が返ってきそうではある。仮にそれが本当なら、組織名称とか階級呼称とかいう枝葉末節の部分ではなくて、日本の政治体制のあり方とか国民の安全保障意識とか、そういう方向に物言いをつける方が (先方にとっての) 本質的な解決になるはず。
それを (やらずに | できずに) 末梢的な部分に物言いをつけて、問題解決の役に立っているような気がしているのなら、それは単なる自己満足というもの。いいことをしたフリをして、いい気分に浸っているだけ。
というところで、話は「暴力装置」につながってくる。基本的には、軍隊にしろ警察にしろ、力でもって何かを実現しようとする手段なのだから、どういう看板を掲げていようが関係なく、(一般名詞的な意味で) 暴力装置的な意味合いを帯びていることは否定しようがない。そこで関わってくるのが、たとえば軍隊であれば文民統制の話。
いわゆる平和活動家の人がしばしば見落とすポイントだけれど、軍隊とただの暴力組織の違いは、指揮・統制の有無。そして、その指揮・統制の頂点に立つのが誰なのかで、「国民の軍隊」なのか「党の軍隊なのか」、はたまた「誰かさんの私兵」なのかが決まってくる。
だから、自衛隊の階級呼称や組織名称がどういうものであれ、国民が選挙で票を投じることで選ばれた代表がコントロールするという根本に変わりが生じない限り、そして、その国民がかつてのような富国強兵・外征路線を支持するのでない限りは、太平洋戦争以前と同じ状況に逆戻りすることにはならない。
だから、当事者である自衛官の皆さんも、「暴力装置と呼ばれたのが残念」なんてことをいうのではなくて、「我々は文民の統制下で国民のために働いているんです。そこら辺の武装軍閥集団とは違うんです」と、自信を示して欲しいと思うのだけれど。
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それだからこそ、その代表たる文民にはしかるべき知識や識見が求められるし、代表を選ぶ国民の側も外交や安全保障の問題について真剣に考えて票を投じないといけない。それが置いてけぼりになってしまったら、そっちの方が呼称の話よりも、よほど重大な問題。
自衛隊と呼ぼうが日本軍と呼ぼうが、それは本質の話ではなくて。ここで本質といえるのは、国民が「自分達の、自分達による自分達のための国防組織である」という意識を持ち、それを維持すること。言い換えれば、軍事独裁体制になったり、あるいは特定の政党のための軍隊になったりしないようにすること。これ重要。
とかいう形の議論になるのなら良いのだけれど、どうも上っ面というか、字面だけに囚われて物事をいう人が少なくないかなあと。そこのところが気になってしまった、そんな週末。
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