Opinion : 朝鮮半島のチキン ゲーム (2010/12/27)
 

年末だというのに、こんなネタで書くのはちょっと気が重いのだけれど。

春の「天安撃沈事件」、先日の「延坪島砲撃事件」など、朝鮮半島情勢が何かときな臭かった 2010 年。当の日本も他人事ではなく、尖閣諸島をめぐるゴタゴタがあり、結果として国内における反中感情 (というのが大袈裟ならば、対中警戒心) が高まる事態になった。

ものすごくポジティブな考え方をすれば、こういう事件が起きたことで結果として「憲法 9 条があれば日本は平和」「憲法 9 条を護っていれば日本は平和」といったお花畑的思想が相手にされにくくなったわけで、それ自体は悪いことではない。

もっともその一方では、やたらと威勢のいいことをいう国士様が沸いて出てきたので、これはあまり好ましくない話。建前だけ自由があることになっているどこかの国と違って、かりにも「思想の自由」を標榜する国だから、国士様にも思想・発言の自由はあるし、それを止めろとはいわないけれど。

そういった話とは別に、朝鮮半島で何かある度に、あるいは平壌が何か威勢のいいことをいう度に「朝鮮半島情勢は一触即発」「これで朝鮮半島が戦争になるのではないか」ということをいう人がいるのだけれど、それもどうかと。そんなに戦争が起きて欲しいの ? という言い方はキツ過ぎるかも知れないが、平壌の勇ましい発言をいちいち真に受けるのもどうかと。いや、最近ではソウルも似たようなものか。


もちろん、可能性としては「平壌が状況を正確に認識していなくて、花火を上げれば勝てる」と考えて威勢のいい発言をしている可能性もゼロとはいえない。しかし、情報が遮断されている一般市民のレベルならまだしも、国家中枢のレベルでそんな認識だったら、国の生存が怪しくなる。

とにかく体制の維持・国の生存を図ることが第一の平壌の指導層が、そこまでアホだろうか。一連の瀬戸際政策や駆け引きを見ている限り、もっと (良い意味かどうかは別として) 頭はいいと思われる。

かつての「ソウルを火の海にする」発言にしても最近の一連の発言にしても、平壌のいうことはいちいち、不必要なまでに勇ましい。でも、それを額面通りに受け取って「平壌が戦争を仕掛けるつもりだ」というのは早計。先日には「隠蔽されていた戦闘機や火砲が出てきた」なんて報道があり、それに対して「こりゃ戦争か」と思った人もいたようだけれど、本気で花火を上げるつもりなら、わざわざそんな戦略的奇襲のチャンスをつぶすような真似をするはずがない。

国内政治のことを考えると、対外的に弱みを見せるわけにはいかないので、威勢のいい発言をしたり、何らかの譲歩、勝利の印を引き出したりする必要がある。そのために、これ見よがしに武力をちらつかせたり、勇ましい発言を繰り返しているのではないのかというのが個人的な見解。それで相手が退けば、「人民軍の偉容を見て相手が怖じ気づいた」と国内宣伝を展開すればよいわけだし。

ただし、その辺の事情は韓国も似たようなもの。ここで弱腰になったら世論が激高して政権が危うくなる。だから、李大統領も「反撃する」とかなんとか威勢がいいけれども、本気で戦争を仕掛けて北朝鮮を滅ぼして南北統一、なんてことまでは考えていないのでは。そんなことをやったら中国が黙っていないし、韓国にとっても経済的な意味で身の破滅。

確かに、天安撃沈事件にしても延坪島砲撃事件にしても、手口が荒っぽくなってきている感はある。しかし、それに続く一連の動きを見ると、「賭け金を釣り上げて相手が先に降りるのを待つ」という狙いがあるように見えるのだけれど、どうだろう。いわば、一種のチキン ゲーム状態になっているのが、今の朝鮮半島情勢なのではないかと。


ただ、当事者に本気で花火を上げるつもりがなくても、こういう状況でテンションが上がると、偶発的に本物の戦争になってしまう危険がある。トップにその気がなくても、現場で意図的に、あるいはうっかりしてエスカレートしてしまうリスクはあり、そうなると「一発だけなら誤射かも知れない」なんていっていられない。

それに、何かやって「大丈夫だった」となると、「次はこの辺までやっても大丈夫だろう」と考えて少しばかりエスカレート、ということを繰り返されるとまずい。そうやって少しずつ閾値に近付いているにもかかわらず、少しずつ近付いていると危険を認識できない可能性があるから。そして、ある日突然「限度を超えてしまってドッカーン」なんてことになるのは困る。

ともあれ、チキン ゲームだけでなく、当事者が落としどころというか退きどころというか、そこまで認識していないと、どちらも退くに退けなくなって収拾がつかなくなってしまう。双方ともチキン ゲーム疲れして、有耶無耶にトーンダウンしてくれればよいが、どうだろう。(余談だけれど、この「有耶無耶」とか「曖昧」とか「落としどころ」とかいう概念を理解できないのが、お花畑的平和論者の最大の欠点だと思う)

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