Opinion : 軍民両用品に、軍事転用を阻止する仕組み ? (2011/1/31)
 

拙著「戦うコンピュータ 2011」はありがたいことに好評の様子。ところで、その前に出した「戦うコンピュータ」を読んでウルトラ斜め上な解釈をした挙句に怪電波を飛ばした、杉原 "タフブック" 浩司氏のことを覚えておられるだろうか。その杉原氏、昨今は Twitter を主戦場にしているらしい。まあ、今は Twitter を使うのがナウいし。

そして相変わらずタフブックに粘着中なのだが、先日には「軍民両用品の軍事転用をできないようにするべき」という珍無類な主張を始めた。さらに「アメリカにタフブックを輸出して軍事転用されているのは怪しからん、一方で北朝鮮向けの輸出を禁じているのはダブスタ」といいだして、ボルテージは上がる一方。

とりあえず togetter で「まとめ」を作ってみたので、それについては こちら を参照していただければ。。今回の主張もまた、突っ込みどころが多すぎて笑える。そもそも、自著を珍解釈されて毒電波をばらまかれた私は一種の被害者みたいなものだけれど、それはともかく。


突っ込みどころ・その 1「経産省のダブスタ」。アメリカに輸出して軍事転用されても日本の不利益にはならないけれど、北朝鮮に輸出して軍事転用されたら日本の不利益になる、と突っ込んでみたい。同盟国と、脅威認定されている国の違いという話がメインなのでは。誰だって、自分に不利益になると分かっている相手にモノは売らない。

では、「相手に関係なく、軍事転用の可能性があるなら輸出禁止」といいだすと、今度は民生品として使うつもりのものまでトバッチリを受けてしまう。それで「軍事転用されないような仕組み」という話が出てくるのだろうけれど、その話はまた後で。

突っ込みどころ・その 2「アメリカの戦争犯罪に荷担して民間人を殺すのに使われている」。戦争犯罪かどうか、誰が公正中立に認定できるというのだろう。「俺が戦争犯罪だといっているのだから戦争犯罪だ」とでもいうのだろうか。杉原氏は神か ?

まずは「戦争犯罪」の定義を明確にした上で、何が具体的に該当するかを示すのが筋だと思うけれど、きっと「戦争犯罪」の定義をめぐって喧々囂々、いつになっても収拾がつかないというオチになりそう。非戦闘員の犠牲者の数だけなら、アフリカあたりの紛争の方が間違いなく多いのだし。

突っ込みどころ・その 3「なぜタフブックにだけ粘着する ?」。実のところ、民生品として輸出したものが海外で軍事転用されている事例なんて、なんぼでもある。たとえば PlayStation 3 が米空軍の手でスーパーコンピュータに化けたし、その PlayStation 3 でおなじみの Cell プロセッサにしてもしかり。なにかと有名な日本製ピックアップトラックしかり。

なのに、なぜか杉原氏はタフブックと Panasonic にばかり粘着して「ブラック企業」とか「ブラッド企業」とかいう誹謗中傷を展開している。一般的な問題であるにもかかわらず、特定の企業・製品にだけ粘着するのって、どうなんだろう。

だいたい、頑丈ノート PC はタフブックに限らない。NEC の「ShieldPro」もあるし、海外では General Dynamics や DRS Technologies でも手掛けている。そっちは無視していいのか ? というか多分、杉原氏はそっちの存在を御存じない。

そして、決定版となる突っ込みどころ・その 4「軍民両用品の軍事転用阻止は可能か」。そもそも、素の状態でどちらにも使えるから軍民両用品というので、転用が不可能になる仕組みを組み込んだら、もはやそれは軍民両用品とはいわない。というか、どうやってそんな仕組みを実現しろと ?

たとえばノート PC。今は軍用品でも TCP/IP で通信して USB や PCMCIA や Ethernet といったインターフェイスを用いるものだから、「MIL-STD-1553B を付けなければ OK」とかいうハード的な制限は不成立。では、ソフト的にはどうかというと、それは Windows とか Linux とかいう OS レベルの話であって、Panasonic の担当範囲外。

それに、ソフトウェアで何かするにしても、どうやって「今は軍事用途で用いられている」「今は民生用途で用いられている」と判断すればいいのだろう。それに、外部とのインターフェイスとなる USB や TCP/IP や Ethernet に「軍事転用されないような仕組み」を付けるにしても、標準化仕様を改編するような口出しができるかどうか、極めて疑問。

そもそも、「軍事用途に転用できないように」なんていいだしたら、「人間」とか「空気」とか「石油」とか「海」とか「陸地」とかいったものは、いったいどうすればいいのかと。まさか「人間が兵士として軍事転用されないように、徴兵忌避するよう洗脳教育を施すべきだ」なんていいませんよね ? (ぉ

なんていうのは極端だけれども、実現が不可能といっていい要求を突きつけても、それを受ける方は困ってしまう。ちなみに氏は、「海外の販売会社に対して軍や政府機関に売らないよう契約で縛る」という手は思いつかなかったようだけれど、そんな契約が合法的かつ商慣習に適合するものとして認められるかどうかは、私は知らない。


結局のところ、この件は「日本は武器輸出をしていない平和国家」「アメリカの戦争に協力するなんてとんでもない」という杉原氏の思い込みというか信念というか、それに反する話が存在するのが気に入らないということなのでは。つまりは、「サンタの存在を信じていたのに、真実を知ってしまったせいで『夢が壊された』と怒っている子供」みたいなものなのかも。

この件に限らず、個人的な趣味や思想・信念に照らして「○○の発言や考え方が気に入らない」「○○社のやり方が気に入らない」といって物言いをつけたり、その際に相手が言っていないこと・やっていないことまで脳内補完してしまう人は、他の世界にも散見される。ところがたいていの場合、せいぜい思想・趣味・趣向を同じくする仲間内でしか支持されないもの。

今回の件の場合、「平和主義」を掲げる御仁の行状にしては攻撃的すぎるというのがあるだろうし、「平和主義」を掲げればみんなついてきてくれる、という勘違いもあるだろうし。そもそも、「正義のために国が/自分が滅びるぐらいなら、まず自分が生き残る方が先」というのが一般的な反応なのでは。

と、いろいろ書き連ねてみたけれど、まだ何か「足りない」ような気がするので、そのうち何か続きを書くかも。

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