Opinion : 部分最適化 ≠ 全体最適化 (2011/2/7)
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エジプト情勢をめぐって、「横暴な国家権力に立ち向かうエジプト人民はえらい」という調子で応援 (?) している人が少なくない様子。もっとも、その手の人って往々にして「権力は悪、人民・市民は正しい、権力打倒は正しい」というロジックで動くものかも知れないけれど。
そして、「壊す」ことは考えていても、もっと大変な「壊した後をどうするか」まで考えていないことが多いように思える。何もイラク情勢を引き合いに出すまでもなく、壊すことよりもその後が大変だというのに。エジプトだって、現政権が退陣しただけで、もうすべての問題が片付くと思うのはおめでたすぎる。実際、「政権交代すれば問題解決」という幻想がぶち壊しになった事例、どこかの国に存在していたような気がするのだけれど。
何も今回の件に限らず、あるローカルな部分で問題があり、それを解決しようとした結果、全体としては決していい方向に進まなかった、なんて事例は少なくないのではないか。というのが気になるところ。国でも自治体でも企業でもその他の組織でも何でも、それがスタンドアロンで存在しているわけではなくて、常に他者との関わりがあるわけだから。
たとえばエジプト情勢についていえば、Gaza Strip に武器・物資が流入するルートはよく知られているようにシナイ半島経由。つまりエジプトの領土。だから、エジプトの情勢がどうなり、エジプトにどういうスタンスの政権ができるのかは、その Gaza Strip と、そこを押さえている Hamas にも影響する。結果として、その向こう側にいるイスラエルの動向にも影響する。
なんてことを書くと、「パレスチナ人を抑圧するイスラエルは悪だから滅びてしまえ」と思っている類の人が、どう反応するかどうかは知らない。ただ、イスラエルが自国の生存のためなら容赦しないのは間違いないので、エジプト情勢の動向が結果としてイスラエルからパレスチナ、さらにはその周辺にまで飛び火する可能性は考慮しておくべきではないかと、
それに、エジプトはスエズ運河を押さえているわけだから、アデン湾から紅海を経由する航路の動向にも影響するかもしれない。収入源であるスエズ運河を閉鎖する可能性は低いにしても。
そして、なんだかんだで中東情勢が不安定化すれば原油相場への影響は不可避で、結果として世界経済にも盛大に影響してくる。そうなってくると、エジプトというローカルな範囲で政権交代という部分最適化 (ここではそういうことにしておく) があったとしても、それが全世界規模で見た場合の全体最適化につながらない可能性があるんじゃないの、と。
なんていうところまで考慮した上で「ムバラク政権打倒 !」と叫んでいるのかなあと。そこがちょっと疑問だと思った次第。誰のこととはいいませんけれど。
これはエジプトに限らず、北朝鮮情勢も同じこと。金王朝が怪しからんからつぶしてしまえというだけなら簡単だけれども、その後のことを考えると、それが全体最適化につながるかどうか。今更だから具体的な内容までは書かないけれども、周辺諸国にとってはそれぞれネガが出てしまう。
結果として、日本も含めた周辺諸国にとっては「北朝鮮が暴れるのは困るけれども、なくなってもそれはそれで困るので、結果として現状維持で暴れないように抑え込むしかない」という妥協にならざるを得ないのが正直なところ。北朝鮮の人民にとっては極めて不幸な話だけれども。
この手の、部分最適化がバランスを崩して全体最適化につながらない事例、機械やシステムの設計、あるいは組織運営など、さまざまな部分で存在しそう。でも、そういう話を無視してミクロ的にモノを見てしまい、部分最適化だけで問題解消 ! と単純に考える人が目立つのは、なんだかなぁと思う。
もちろん、常に部分最適化と全体最適化が矛盾するわけでもないだろうから、逆もまた真なり。ただ、特定部分の最適化を考えたときに、それが周囲にどういう影響をもたらすかを考えてみるだけでも違うんじゃないかなあと。そうなると、今回のエジプトの件なんかは、単純に手放しで喜んで、応援していられる種類のモノでもないと思うのだけれど。
なんて書いていたら、さすがにいきなり全部ぶち壊しという方向にはならず、穏健に交渉を通じて改善を図る方向に進みそうなので、ちょっと安心した。
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