Opinion : KC-X の機種選定結果を受けて思ったこと (2011/2/28)
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米空軍の KC-X は結局、落ち着くべきところに落ち着いたというべきか、Boeing Co. が提案していた B.767 ベースの KC-46A (a.k.a. NewGen Tanker) に落ち着いた。A330-200 MRTT こと KC-45A を担いで落選した EADS North America が今後にどう出るかは分からないけれども、異議申立をすれば議会でスッタモンダするのは明白。
実のところ、「評価報告書を間違って送っちゃった事件」の頃から「実は Boeing が不利なのではないか」という業界雀の見方が出ていて、それに釣られたのかどうなのか、アメリカのシンクタンクにも「Boeing 不利」との見解を出すところが出ていた。でも、終わってみればこの通り。空軍では「純粋に技術的見地から評価した結果」と説明しているけれども、真に受ける人がどれだけいるかは知らない。
改めて実感したのは、「競合する産業分野がある国に売り込みをかけるのは難しい」ということ。特に、相手国で「これは我が国としては譲れない」とみなしている分野で競合したり、政治的にセンシティブな用途で売り込みをかけたりする場合には。
KC-X も、元が民間輸送機であり、アメリカとヨーロッパがガチンコ勝負をやっている分野だから紛糾した一面がある。
にもかかわらず、その KC-X にウクライナ製の機体を持ち込もうとしたり、さらに政治的にセンシティブな大統領専用ヘリという分野で、よりによって中国製の機体を売り込もうとするドン キホーテが出現するのだから、アメリカというのは面白い国だと思う。なんて笑い話はともかく。
といっても実は、米軍でも他国にルーツを持つ装備を採用している事例がいろいろある。たとえば米陸軍では汎用ヘリとして Eurocopter EC145 ベースの UH-72A を導入しているし、さらに遡ると MINIMI 機関銃や AT-4 対戦車ロケットなんていう事例もある。では、米陸軍が欧州製装備に対してとことん開放的かというとそうでもなくて、自動小銃は相変わらず自国産の M16/M4 にこだわっている。
つまり、all or nothing というわけでもなくて、「譲れる分野」と「譲れない分野」がある、という話。ある分野で海外製品を採用しているからといって、別の分野でも同様とは限らない。だから、その「譲れない分野」で虎の尾を踏んで他国から乱入すると、怪我をする。そこのところを上手く見極めないと、売り込みが失敗したり、政治的に紛糾したりする。
これはアメリカに限らず、他国でも同じこと。相手国で大きな地位を占めているメーカーがある分野、自国の得意分野だとみなしている分野に対して他国からガチンコ勝負を仕掛ければ、もめる可能性は高い。たとえば、ベルギーやイタリアに銃器を売り込むとか、スコットランドで他国製のウイスキーを売り込むとか。逆に、不得意分野の穴埋めが成り立つ分野であれば、売り込みが成功する可能性が出てくる。ロシアにおける揚陸艦や UAV は、どちらかというとそういう事例ではないかと。
といっても、ロシアがフランスやイスラエルから装備を買うのは、あくまで自国製品が駄目な場合のストップギャップ。かつ、ゆくゆくは国産化して穴を埋めるという前提だから、ロシア国内で製造するという条件がつくのは当然の成り行き。
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いってみれば、単に技術的価格の話だけではなくて、メンツとか政治とか雇用とか経済政策とか、いろいろなファクターが関わってくる話。だから「P-8A が炎上しているから P-1 を代わりに売り込んでしまえ」とか「A400M がゴタゴタしているから C-2 にもチャンスがあるのでは」というのは、モノの見方がちょいと単純すぎると思う。
そこで火事場泥棒的に (ひでぇ) 売り込みをかけるにしても、相手のプライドを逆撫でしないように、政治的なゴタゴタを生まないように、そして売り込み先に相応のメリットを生み出すように、注意深く作戦を立てて売り込みを仕掛けないと失敗するのは間違いない。
それどころか、注意深く作戦を立てても駄目なことだってある。現に KC-X でも、EADS は「アラバマ州に工場を作り、全米で 48,000 名の雇用を創出」とやったのに、この結末。アラバマ州の議員は当然ながら賛成に回ってくれるにしても、それだけ。WTO で補助金問題をめぐって大バトルを展開している事実の前には、この程度では効果が足りなかった模様。
そういえばいつだったか、豊田市内に店舗を構える日産の販売店が「当店は、豊田市内に一軒しかない日産店舗です。トヨタの占領下ではありますが、元気一杯お客様第一主義をモットーに社員一同頑張っております」と Web に書いていた (ネタ元 : ここは酷い苅田町営航空ですね / 障害報告@webry)
この販売店の皆さんなら、KC-X 売り込みのためにアメリカに乗り込んだ EADS 関係者の心境がよく分かるかも知れない (ぇ もっとも、以前に長野かどこかで見かけた現代自動車の販売店は、もっと大変だったかも知れないけれど。
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