Opinion : 自己犠牲と美談と人柱と (2011/4/11)
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先日に blog でちょっと触れた話について、「自衛官が被災地で飯食べてると怒られることがある」とのコメントを頂戴した。事実ならひでぇ話だと思う。
救援に行った人でも、いや、むしろ救援に行った人だからこそ、食事や睡眠をできるだけ確保して、任務の維持に必要な体力・気力を保てるようにフォローしないと、肝心の救援活動そのものの足を引っ張るという認識がないんだろうか。
それに、被災した人に対しては救援の手がいろいろと差し伸べられるけれども、その救援に行った人達が救援活動で疲れ果てて参ってしまったとき、誰が助けてくれるんだろう ? まさか救援要員は使い捨てだなんて思ってませんよね、総理 ?
この手の話を聞くと思うのは、「美談もほどほどに」ということ。
自然災害、あるいは事故が起きたときなどに、自分が犠牲になって家族や友人、あるいはその他の人を救ったという美談が取り上げられることが多い。今回の震災でも、避難誘導に奮闘して自らが犠牲になってしまった消防関係者 (だったと思うけれど、この辺の記憶が不確か) の話を何かで見た記憶がある。
その手の話が美談として取り上げられるのは良くある話だけれど、美談として持ち上げることが却って、害を及ぼしていやしないか、と。
無論、本人が「自分がここで助けなければ」「ここで自分が犠牲になって他の人が助かるならば」と自発的意志に基づいて行動した結果であれば、それを非難するのは筋違い。それで亡くなった方の家族・友人はたまったものではないけれど、自発的意志によるものであれば、まだしも救いがあるかも知れない。
でも、周囲が自己犠牲を強要する、あるいは強要するかのような雰囲気を作り出すことになれば、それはもはや美談とかなんとかいっていられない。第一、周囲から強要されてするのでは、もはや自己犠牲とはいえない。それはむしろ人柱というのではないか、と。
それに、他人に自己犠牲を強要する考え方がエスカレートすると、「自分が生き残るために他者を犠牲に。それを自己犠牲の美談で誤魔化してしまう」という話になりはしないかとも思うし。
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といったところで思い出したのが、米軍の救難部隊の話。
米空軍などの救難部隊が掲げるモットーは "That Others May Live"。ただしこれは省略表現で、正しくは "These things we do, that others may live."。つまり、「生き残るであろう者達のために助けの手を差し伸べる」という意味。確か、自衛隊の救難部隊も同じようなモットーを掲げていたような…
この航空救難に限らず、陸軍や海兵隊でも戦場で負傷した兵士の救出に全力を挙げるのが米軍のカルチャー。そのために、場合によっては救出部隊の方が大きい犠牲を出してしまうこともある。その代わり、「きっと助けに来てくれる」ということが兵士にとっての支えになり、士気を維持する根源にもなっている。
太平洋戦争の末期に、マリアナ〜硫黄島〜日本本土にかけて、救難用の航空機や潜水艦を配備して、洋上に不時着した航空機の搭乗員を救出する体制を敷いていたのも、こういう考えの現れ。もっとも米軍に限った話ではなくて、イギリス軍でも英本土航空決戦の際などに、ドーバー海峡あたりで同様の救難体制を敷いていたそうだけれど。
ともあれ、かような建前ではあるけれども、だからといって救難部隊、あるいは救出作戦に赴く部隊に対して「第一線の士気を維持するために犠牲になってこい」なんてことは、少なくとも露骨に口にできたものではない。そんなことを口走る指揮官がいたら、それはそれでトンでもない話。これも、「自己犠牲」を「人柱」にしてはいけないという一例。他者を生かすために自らの生き残らなければならないのが救難。
商売柄、ここで自衛隊や米軍の話について書いているけれども、いうまでもなく消防や警察だって同じじゃないのかなあと。
あと、長丁場の任務や作戦行動になると、同じ人がずっと任務に就き続けているのはきつい。たとえば、第二次世界大戦で各国の動向を見てみると、前線に派遣されたらそれっきり、戦争が終わるか白木の箱に入るかしないと帰国できない場合と、一定の期間、任務、あるいは出撃回数をこなしたら帰国したり後方に下げたりできる場合に分かれる。もちろん、後者の方が好ましいに決まっている。
どんなに優秀な人、頑健な人でも、延々と任務に就き続けてこき使われていたら疲弊する。「○○戦線は誰それで保つ」と指揮官が称賛するのは勝手だけれども、それに依存した結果として優秀な人材をすりつぶしてしまえば、結果的に大きな損失になる。
だから、定期的に交代させられるだけのリソースを確保するとか、交代を円滑に実現するための仕組みやルールを常日頃から整備しておくとかいう手を打たないと、トータルで見て大きな犠牲や損失につながる。
とりあえず、初動では頭数が要るからということで 10 万人以上を突っ込んだ自衛隊の災害派遣についても、そろそろ誰かが長期戦への備えやローテーションといったことを考えておかないと、本当にヤバいんじゃないか。なんてことを考えてしまった今日この頃。「自己を犠牲にして被災者のために尽くす自衛官」なんて美談で喜んでいる場合じゃない。
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