Opinion : 風評被害についてつらつらと (2011/4/25)
 

ひところほどのような「自粛強要ムード」は減ってきたようで、週末に道路交通情報を見ると、渋滞を示す赤線が見られるようになってきた。といっても東名・中央・関越だけで、東北道はスッカラカン。(と思ったら、これを書いた週末には渋滞が復活してきた模様)

もちろん、物見遊山のつもりで被災地に野次馬が押しかければ迷惑極まりないのだけれど、それを手控えているというよりも、やはり福島第一原発の件に起因する「風評被害」が影響しているのではないかと思われる。

「福島県がどこにあるか知らない」まで極端でなくても、福島県が浜通り・中通り・会津と縦に三分割 (?) されていて、問題の原発があるのは浜通りだというところまで承知した上で「福島県はどこでも危険」だと思い込んでいる人がいたら、それもどうかと思う。そんなあたりをきっかけに、改めて風評被害についてつらつらと考えてみた。


まず発端は何かという話になると、「不確かな伝聞情報」「正しい知識・情報の欠如による、間違った状況認識」「意図的、あるいは悪意による情報の流布」に大別できそう。それらが、(ことに事故・災害に付随する場合は) 安心・安全に関わる不安感によって増幅され、(安全というよりも) 安心感を求めるという心理につけ込まれる形になり、最初の「不確かな伝聞情報」にループ形で拡散するのではないかと思う。

金町浄水場の一件に起因する、ミネラルウォーター欠品騒ぎは典型例といえそう。「ミネラルウォーターをそのまま乳児に飲ませるのは良くない」という指摘など、どこ吹く風。
特にこの件、小さい子供だと危険度の閾値が下がるものだから、それが増幅器の役割を果たしたのは間違いなさそう。子を持つ母親であれば、往々にして「お子さんの安全のために」といわれれば目の色が変わるものだし。(これ自体は責めるべきではないけれども、それを利用しようとする人がいるであろうことは留意すべき)

それに、数字の上で、あるいは統計の上で大丈夫だと理屈で分かっていても、「万一の場合のことを考えると」とか「ひとつ間違えば」とかいうダメ押しの一言を付け加えれば、多くの人は平静さを失って「ひょっとすると」と不安感に駆られるのでは ?

特に、原子力に代表されるような、平素はあまり馴染みのないテクノロジーが関わってきた場合には話が厄介。「よく分からないけれども、なんだか怖そう」というイメージがあるところに、さらに核兵器の存在が覆い被さってくるから始末が悪い。これに限らず、高度化したテクノロジーや馴染みの薄いテクノロジーは、知らない人にとっては超魔術も同然だし。

となると、「水道水は危険、ミネラルウォーターを買っておけ」と焚きつけた側が、たとえ悪意がなくて善意だったとしても、結果的にパニック買いに火を点けたことになってしまう。野菜の話もしかりで、「食の安全を」という善意に乗っかって風評・デマ・中傷の類がやってくる。「○○人が略奪をはたらいた」の類も似たようなもので、こちらは「生活の安全を」という善意に乗っかっている。

そして、親がそういう風評・デマにひっかかると、(子供の安全のためにという善意から) 子供に対しても同じような話を教え込む。それが結果として、被災地から避難してきた児童に対するイジメみたいな事件につながってしまう。子供の方が、大人よりも残酷かつストレートな対応をとりそうだし。

もっとも、最初から悪意をもって風評やデマをばらまく人がいる可能性も考えられる。また、「自分だけが不安になってなるものか」とばかりに周囲の人を巻き込んで、みんなで不安になろうとするケースもあるかも知れない。その場合、風評をばらまくこと自体が目的だからなおのこと、受け入れられやすいように善意の仮面を被せる可能性が高い。そして、「国やマスコミは真実を隠している」とかいう類の台詞がセットになりそう。

なんにしても、表向きは善意の仮面をかぶってやってくるものなのだろうなぁと。裏を返せば、殊更に「あなたのために」的な善意、あるいは「不安感」を煽る形の伝聞情報は「ちょっと待てよ」と疑ってかかるべきかと。

なんてことまで書いておいてアレだけれど、ときには「自分がこういう発言をしたら、どこにどういう影響が及ぶか」を何も考えずに思いつきで口走り、風評を撒き散らすケースもある。そういえば昔、破綻していない銀行のことを「破綻した」といって取り付け騒ぎを起こした大臣がいなかったっけ ?


困ったことに、悪い風評はあっという間に広がるけれども、それを打ち消す情報はなかなか広まらなかったり、そもそも取り上げられなかったりする。結局のところ、時間が解決してくれるのを待つしかない、なんてことになりがち。それでは、風評被害に遭う人が救われない。

それはそれとして。風評被害で困っているらしい福島県を捨て置けないという名目の下、昨日、仲間を募って会津若松までクルマを飛ばして、名物・ソースカツ丼をいただいてきた。浜通りの原発近辺はともかく、中通りや会津は何の問題もないのだから。久しぶりにクルマで遠出をして美味しいものを食べて、いい気分転換にもなった。

最後はそういうオチかよっ !

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