Opinion : 昨今のリビア情勢について、つらつらと (2011/5/23)
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イラクやアフガニスタンがお題だと、たちまち「行き詰まった」とか「ベトナム化」とか「泥沼化」とかいう類の言葉を連発する皆さん、なぜか昨今のリビア情勢については、あまり歯切れがよろしくないように見受けられる。反政府勢力に NATO が加勢して、いわば「ねじれ現象」になっているから、無理もないところではあるけれど。
そもそも、個人的にウォッチしていた某氏のごときは、国連安保理決議 1973 号が成立して NATO が "Operation Unified Protector" を発動、本格的に軍事介入する前は「リビア大使館に抗議行動を !」とまなじりを決して盛り上がっていたのに、今では福島の原子力発電所の話以外は目に入らない御様子。いい加減なものである。
なんて話はともかく、リビア情勢、手詰まり感があるのは確かではないかと思う。
先日、Lexington Institute が "Operation Unified Protector" へのアメリカの取り組みに絡んで「対反乱戦・不正規戦・低劣度紛争の時代が終わったのではないか。今後の軍隊にとって、これらが大きな脅威要因になることはないのでは」なんて指摘をしていた。個人的には、なにかというと「○○の終わり」「○○の時代は終わった」を連呼するのは安直だと思うけれども、件の指摘を自分なりに再解釈するならば、
他国の体制をひっくり返すために、地上軍を投入してまで介入する考え方は終わった
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ということなら納得がいく。いいかえれば、「低リスク介入しかやらない」ということ。
リビアの場合、国連安保理決議というお墨付きはあるものの、誰も「本格的に地上軍を投入して現体制をつぶせ」とはいわない。現実問題、NATO 諸国にそんなリソースも予算的な余裕もないだろうし、やったところでアフガニスタンが一つ増える結果になる。体制をつぶせば、その後をどうするかという責任まで降ってくる。
でもって、介入した側がそこでいくら頑張って、やいのやいのと尻を叩いたところで、当事国の国民がその気にならなければ解決しないのは、すでにあまたの事例で証明済み。それだったら、リビアの例でいえば反政府勢力に前面に出てもらって、介入する側は航空支援とか顧問団の派遣とかいう低リスクな作戦にとどめる。そういう話にならざるを得ない。
ただ、それで反政府勢力がうまいこと政府軍を追い落としてくれればよかったが、実際には NATO が空から介入しても一進一退。このまま根気比べになったら政府軍が勝つことになるのでは ? というか少なくとも、政府軍の負けにならない。
では、現体制が続いたとして「経済制裁をやったら」という議論が出てきた場合はどうなるか。そこでまず訊いてみたいのだけれど、経済制裁で体制がつぶれた国、いったいどれだけあっただろう。それに目下のリビアの場合、安保理決議 1973 号の時点で中露両国が賛成していないのだから、すでに足並みが揃っていない。それで果たして経済制裁が実効性を発揮するのだろうかと。
ましてリビアは産油国。制裁だなんだといっても、裏からこっそりと石油欲しさに取引に応じる国が出ないと、いったい誰が保証するのかと訊いてみたい。
正直な話、「支援が足りない」などと NATO に文句をいっているようでは、リビアの反政府勢力が体制を転覆することも、その後で (もっと大変な作業である) 新しい国作りを進めることも、満足にできるものかどうか、個人的には疑問。よほど何か決定的に事態をひっくり返すきっかけがない限り、このまま尻すぼみになるのではないか、と思える。
その NATO は NATO で、「飛行禁止空域の設定」という当初の名目の割には、その際の妨げとなる防空網の制圧だけに留まらず、政府軍の AFV や指揮統制施設、艦艇にまで攻撃対象を広げている。おかげで AU (African Union) からは「安保理決議違反ではないか」とまでいわれる始末。
「民間人に対する攻撃の阻止」という大義名分はあるにしても、果たしてそれだけなのか。ひょっとすると、今回の事態を名目にして、北アフリカでも強力な装備を揃えている部類に入るリビア政府軍を弱体化させる狙いがあるんじゃないか、と疑ってみた。サハラ砂漠周辺で活動しているアルカイダ関連組織を抑え込む観点からすると、ほどほど (現在ほど強大ではないという意味) の戦力で今の体制が続いてくれる方が都合がよい、という考え方があっても不思議はなかろうし。
そもそも、いわゆる "中東民主化" からして、多くの国の本音としては「自国と対立している国で反政府運動が盛り上がって、体制が倒れるのは歓迎。でも自国で同じことが起きるのは勘弁してね」であっても不思議はない。となれば、微温的な支援に留まっても無理はなさそう。
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