Opinion : 新技術への移行は漸進的に (2011/5/30)
 

昨日、クルマを走らせていたら某所で、「左から出てこようとしているのがプリウス、右手の反対車線で向きを変えようとして切り返しているのがプリウス、ひょいとミラーを見たら後ろにいるのもプリウス」という、「三方一両損」ならぬ「三方一両プリウス」状態になった。

プリウスは御存知のようによく売れているし、自分の実家にも 1 台あるぐらいだから、プリウスだらけになっても不思議はないのだけれど、改めて「よく売れてるなあ」と実感。もっともトヨタにしてみれば、初代の頃から延々と開発や投資を積み重ねてきていて、最初のうちはビジネスにならなかっただろうから、撒いた種の果実を今になって刈り取ってもバチは当たらない。と思う。

それをやってのけるだけの見通しと信念と技術力と体力があるというのが、あの会社のおっそろしいところ。といっても、この話が今回の本題というわけではなくて。


将来のことを考えると、電気自動車とか燃料電池自動車とかいう話もある。少なくとも自動車単体で見ればそっちの方がクリーンだけれども、現時点でパッと切り替えられるかというと話は別。コストの問題もさることながら、充電、あるいは燃料電池の燃料を補充するインフラのことを考えると、今すぐに切り替えるのは無理な話。まして中部日本・東日本では節電騒動もあるから、「EV の充電は夜間限定」なんてことになったらシャレにならない。

それに、航続距離の問題もある。満タン (満充電) にして走れる距離が既存のガソリン車と比べて極端に短いのでは使い勝手に劣り、代替になりにくく用途が限られる、と思われても仕方がない。最初、そういうところからスタートせざるを得ないのは仕方ないにしても。

その点、ハイブリッド車というやつは乗り手から見ると、従来のガソリン車と同じ感覚で使えるし、特別に追加のインフラを必要とするわけでもない。ただし燃料消費は減るから、いわゆるガソリン車の延命 (?) という観点からすると理に適ったソリューション。これで時間を稼ぎつつ、次世代につなぐことになるのかなと。

空の上でバイオ燃料が持て囃されているのも、似た部分がありそう。石油依存を減らせるとか、ここで新技術の主導権をとっておけば業界のヘゲモニーを握れるとかなんとか、いろいろな思惑があるのだろうけれど。

で、何をいいたいのかというと、現行のテクノロジーに変わる新世代のテクノロジーが出てきても、コストやインフラや周辺環境との整合性、それにユーザーにとっての使い勝手や利便性といった問題から、そう簡単にパッと切り替えられるもんじゃないという話。切り替えられないのには、切り替えられないなりの理由があるわけで。

既存のテクノロジーに代わろうと企図する新しいテクノロジーが出てきたときに、往々にして、「それが今すぐにでも実用可能で、何も問題はないのだ」と勘違いされることがあるけれども、実際のところ、そんな簡単な話ではない。という類の話は、過去の歴史をひもといてみると、いろいろ出てくる。

新技術というものが世に出て使われるまでには、「研究室レベルで実現できた」「工業化可能なレベルで実現できた」「さらに採算がとれるレベルになった」「さらにリーズナブルな価格で提供できるレベルになった」と複数のフェーズを経ているのが普通だから、「注目の新技術」が現時点でどのフェーズに属しているか。それを見極めないと大怪我の元。

そして、工業化ができて採算がとれるようになっても、最初のうちは高い値段で出てくるものだから、その高い値段を出してもいいという人でなければ手を出せない。そういう状態のうちは大規模な普及には至らず、限定的な数量にとどまってしまう。でも、その時点で手を出してくれる人がいないと、話は先に進まないわけだけれど。

少し前に自分の blog のコメント欄で話題になった「昔の PC の値段の高さ」なんていうのは典型例で、自腹を切って人柱になって高い PC を買って使っていた人がいるから、今みたいな普及と低価格化につながったんじゃないのと。

なんて具合で話を広げると、本題が霞みそうなので話を引き戻すと。
前述したように複数のフェーズがあり、その途中をスキップするのは現実的ではないから、まだ工業化、あるいは商用化が不可能なレベルのものをイメージ戦略先行で「うちではこれを採用する」とか「これで市場を制覇する」とかいう調子でアドバルーンを上げるのは詐欺も同然ではないか、という話。

そういえばその昔、自動車の排ガスが問題になったときに、実用化の目処が立たないうちから「公用車にすべて触媒を付ける」と先走り発表をやって恥をかいた知事がいたとかいう話を、小耳に挟んだことがある。


特に、既存のテクノロジーに何か問題があるとか、見過ごされてきた問題が発覚したとかいう場面では、必要以上に代替テクノロジー、あるいは後継テクノロジーに注目が集まりがち。また、その注目を利用して市場の勢力図を (自身に有利な形で) ひっくり返そうとする人が出てきたり、もっと口の悪い書き方をすれば山師みたいなのが出てきたり、あるいは詐欺師も同然な人が出てきたり、というのもありがちな話。

そういう動きにひっかからないようにするにはどうすればいいかといえば、前述した複数のフェーズ。その中のどの段階に属しているのかという見極めが必要なんじゃないかと書いてみたかった。既存のテクノロジーで実現している利便性、あるいは経済性を犠牲にせずに新しいテクノロジーに移行しようと思ったら、それなりの手間と時間と段階を必要とするはずなのだから。

それと、新技術への即時移行が不可能な場合に、ギャップフィラーの存在を受け入れられない人がいると始末が悪い。新技術に熱狂して「既存技術をすべて捨て去れ」と宗教的熱狂に取り憑かれた場合に、ありがちな話ではあるけれど。

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