Opinion : 安全基準となる値についての徒然 (2011/6/6)
 

当然の前提条件というか、常識レベルの話だろう。と思っていたら、実はそうでもないような気がしてきた話について、ちょっと書いてみようと思った。何の話かというと、「安全基準」というモノの話。なにも原子力発電所や放射線の話に限らず、一般論として。

というのは、「安全基準」について、明確に線引きできる閾値が明確に決まっていて、それを超えたら危険、超えなければ安全、と単純二分して考えている人が少なくないのでは、と思えたので。


鉄やアルミなどといった各種の素材を使って何か造るとかいう話であれば、材料の強度は実験によって検証できる。そして、そうやって割り出した上限値より高い負荷をかけたら壊れる、という考え方ができる。もっとも実際には「安全率」をかけるので、設計時点で想定した上限を超えた途端にぶっ壊れるわけではないけれど。

と書いたところで、「念のために」と思って学生のときからずっと手元に残している JIS の便覧を調べてみたら、たとえば金属材料のページだと、成分組成に加えて引っ張り強度などのデータが載っているから、それとブツの構造に基づいて計算することになる。そもそも素材ごとにデータが出ていないと、強度の計算も何もあったもんじゃないけれど。

実のところ、それだけの話ではなくて、飛行機なんかだと疲労破壊試験をやって、造ったモノが設計通りの強度や耐疲労性を備えているかどうか検証するなんていう作業も加わる。ともあれ、こうやって「ここまでは大丈夫」という絶対的な数字が分かっているものはよいけれども、何でもそういう形で片付くとは限らない

たとえば、鉄道や道路における強風時の規制なんていうのは、過去の経験を受けて基準値が変動するものの一つではないかと思う。あと、騒音規制みたいなものだと「人間の感覚」まで関わってきそうだから、ますます話がややこしい。

ただし道路の場合、車種によって横風の影響はかなり異なるのがややこしそう。極端なことをいえば、車体が低くて幅が広いフェラーリと二階建てバスを同一視するわけにも行かない。もっとも、そんな細々と基準値を分けていたら収拾がつかないから、実際には、もっともクリティカルなものを基準にして規制するしかないだろうけれど。

さらに、「基準値を超えたら直ちに危険」と単純二分できなくて、そこからさらに確率・可能性の話が関わってくると、もっとややこしくなる。つまり「基準値を超えると健康に害を及ぼす可能性が高まる」とかいう類のもの。ところが、この手のものについて論じるときに、えてして確率論の部分の話が省かれてしまい、数字だけが一人歩きする傾向があるように感じられるのだけれど、どうだろう。

また、基準値を定める際に「大事を取って厳しく設定した基準値」と「クリティカルな領域ギリギリに設定した基準値」では、まるで意味が違うだろうに。という類の話もある。


とかなんとか、思いつくままにいろいろ並べてみたけれど。

さまざまな事情から、安全性などに関わる基準値といっても単純ではなくて、いろいろな背景事情があるし、クリティカルかどうかの度合だって違うでしょうに。ということを書いてみたかった。基準値の定義、基準値の策定にいたるプロセスや考え方に関する話をすっ飛ばして「基準値を超えたら云々」なんて金科玉条のように振り回されても、ちょっとなあ。と思ってしまうから。

同じ「基準値越え」でも、クリティカルな領域ギリギリの基準値を超えたのと、クリティカルな領域からマージンを取った基準値を超えたのでは意味が違ってくるのだから。そこで頭に血を上らせて「安全基準値を超えたのは、まことに怪しからんことであって云々」とだけ連呼していると、後で足元をすくわれるかも知れませんぞ。というところで、今週はこの辺で。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |