Opinion : 目的としての排外主義とツールとしての排外主義 (2011/7/25)
 

ノルウェーで発生したテロ事件のニュースを聞いて、「なんか釈然としないなあ」と思ったことがひとつ。排外主義を本気で信じていて、反移民思想が背景にあったのなら、自国民を襲撃してどうするの。というところで。この手の排外主義的な運動は往々にして、むしろ外国からやってきた移民を襲撃するような方向に進むのではないかな、と思ったのが違和感の原因。

もっとも、その後になって入ってきた情報によると、銃撃事件は与党・労働党の青年部集会がターゲットだったとのこと。爆弾事件にしても政府の施設がターゲットだったわけだから、「テロ事件によって政府・与党に圧力をかける」という見地からすれば、実はそんなに間違ったやり方ではないのかも知れないけれど。

「間違ったやり方ではない」という書き方に噛みつく人がいるといけないので念のために書いておくならば、爆破や乱射といった行為そのものが間違っているのは当然。そこには議論の余地はないけれども、テロのやり方についてという意味では間違ってないかもね、という意味。


それで、正しいか間違ってるか分からないけれども、いわゆる排外主義に関して、ひとつの仮説を立ててみた。つまり、排外主義者には「外国人を排斥すべきだと本気で考えている人」だけでなく、「排外主義を方便、あるいはツールとして使っている人」がいるのだろう、ということ。

後者の場合、要するに自分が「ビッグ」なことをやって注目を集められれば手段は何でもいいのだけれど、その際の名目は世間の注目と共感を集められるものである方が好ましいので、格好の名目として排外主義を使ったのかもしれないと。個人レベルだけではなくて、たとえば政党が支持を伸ばすためのツールに利用する場面もありそう。

排外主義の場合、対立軸として「自国の輝かしい歴史や伝統」とか「自国に悪いことなど存在しない」とかいう主張がワンセットになりやすいので、他の名目と比べると安直な支持を得るのが容易になりそう。ことに、自国のことを悪くいう声が大きい場面においては、その反動に対する受け皿にもなり得るし。

さらに移民や外国人をターゲットにする場合、カネの問題が絡むことが多いので、さらに受け入れられやすいと考えられるのでは。つまり「○○人が我が国の雇用を圧迫している」とか「○○人が我が国の富を独占している」とかいう類のアジテーション。

といったところで思ったけれど。たとえば安価な外国人労働力があって、それが結果として自国民の雇用を圧迫している、と主張する向きがあったとする。でも、それを止めて自国民を安価な労働力として使うことになれば、今度は別のところから「格差社会」だとか「ワーキングプア」だとかいう物言いが出てくるんじゃ… ?

何も排外主義に限らず、「世の中の良くないことはすべて○○が悪い」と特定の個人、人種、勢力、組織などに責任を押しつけて、「○○を除けば問題は解決する」という方向に持って行こうとする個人、あるいは組織はいる。そして往々にして、「△△を使えば一気に問題が解決するのに、それが実現しないのは陰謀と利権のせいだ」となる。

口の悪い言い方をすれば、「悪役を成敗すれば問題解決だと考える時代劇的思考」ということになるのだけれど、実際のところ、そんな単純に物事が運ぶはずもなく。だいたい、(相対的な意味で) 誰が悪玉で誰が善玉かなんて、そのときどきの状況によって、容易にコロッと変わってしまうものだろうし。

なにもこれ、排外主義に限った話ではなくて、「反○○主義」の類には多かれ少なかれ適用できる話かも。先日に書いた「世間がサンドバッグを求めている」話との関連で、そのときどきの状況に合わせて支持を集められるような悪玉を用意すれば、どこでも実現可能な話だから。


ここまで書いてきた話からは外れるけれども、違和感がもうひとつ。

ノルウェーに限らずスウェーデンやフィンランドも含めて、北欧諸国というと「平和で環境を大事にする人間的な素晴らしい社会」と持ち上げる人が往々にして存在するもの。でも、第二次世界大戦中のノルウェーにはナチに傾倒する一派がいたわけだし、そんな単純に持ち上げられるものかなあと。

もちろん、ノルウェーが中東和平の仲介に積極的だとかいう実績もあることで、反対論として「北欧諸国は戦闘的」といいだすのも単なる電波さんになってしまうけれど。過剰に理想郷扱いするのも、その反対もダメよね、というだけの話で。

なんだけれども、たとえば時事で配信した「ノーベル平和賞授賞式が行われる『平和の象徴の街』で起きた爆弾テロは、世界のどこでもテロが発生する恐ろしさをまざまざと見せつけた」なんて文面を見ると、「えー」と思ってしまう。

そういえば、スウェーデン空軍が "Operation Unified Protector" に参加してグリペンと C-130 を派遣しているわけだけれども、北欧を理想の平和郷扱いする人にとって、このことはどう説明をつければいいんだろう。

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