Opinion : 計測器の話から科学教育の話に (2011/9/26)
 

しばらく前のニュースで、「国民生活センターが安価な放射線測定器の性能を検証したところ、「精確な測定ができていない」「測定結果のバラツキが激しい」など、散々な結果になったという話があった (元記事)。

その話を Twitter で書いたら、普段はゴミばかり撒いている人にしては珍しい数のリツイートがあったので、思わず苦笑。それは「どうでもいい」種類の話なのだけれど、改めて思ったのが、サイエンスの素養というか何というか、そういう類の話。


理工系の大学に通った人なら、在学中はさんざん、さまざまな実験や測定をやって、データを整理してレポートにまとめる作業を経験しているはず。その過程で、有用なデータを得るためには何が必要か、あるいは収集したデータの中から有意なものを拾い出すにはどうすればよいか、といった類のノウハウを体得できていると思う。

でも、そういう経験や知識がない状態で、いきなり計測器だけ買ってきて、しかもそれがどこまでアテになるか怪しい状態。それでもって、周囲を手当たり次第に計測して数字を見て一喜一憂、しまいには「電車の座席がセシウム汚染されている !」と騒ぎ出すに至っては、もう苦笑では済まない。
槍玉に上げられているのは総武快速線らしいけれど、総武線ならここのところ、自分も何回か乗っている。さて、この先どういう結果になるか、お楽しみである。

そもそも、計測器が示した数字がどこまでアテになるのか。1 回だけパッと計測しただけなのか、それとも複数回計測した結果の平均なのか。計測したデータが、福島第一原発の事故が発生する前のデータと比較してどの程度の差異なのか。天候 (特に風向き)、時系列、その他の条件に沿ってデータを収集・整理してみているのか。

もちろん、ガイガーカウンターなどの機器を使った「適切な測定のやり方」を知っているのかどうかだけではなくて、それを実践しているのかどうかという問題もある。

そこまで、きちんと「計測・測定とデータ収集の基本」を押さえた上で、それでもヤバい結果が出たと判断できるのか。それとも、一発測定でヤバそうな数字が出たので「拡散希望」とやっているのか。そこのところが非常に問題ではないかと思う。

少なくとも、前述したように理工系の学校でしごかれていれば、後者のようないい加減なことはしない可能性が高いだろうし。無論、数字の精確さなんてどうでも良くて、意図的に危険を煽ろうとしているだけなのであれば、それはまた話が別であるけれど。

そういえば、放射性物質とはまるで次元が違う話だけれども、自分は体重計に乗る時間や条件を、できるだけ揃えるようにしている。その分だけ、「喰うもの」「出るもの」「運動量」といったファクターの影響がストレートに出ていると思うけれど、実態やいかに。

計測結果の数字をつけて「拡散希望」するのであれば、せめて、測定の条件や方法、得られたデータすべて、その中からどのデータを採用してどのデータを捨てたのか、といった情報まで添えるべきだろうし、それもやらないで「拡散希望」したのでは、御本人の信頼性に関わる問題になる。

でもって、もしも得られたデータが本当に危険な数字だった場合には、やり方がまずいと「狼少年化」につながるんじゃなかろうか。「そんないい加減な測定で得られた結果なんて、信憑性があるかどうか分からない」といって相手にされなくなって。そんなことになれば、ますますヒートアップしてヒステリックになる姿が、目に浮かぶようではあるけれど。


なんていう話になると、「ああ、やっぱり学校で学ぶことって大事だね」と思う。学習する対象の学問そのものだけではなくて、付随して身につけるモノの考え方とか方法論とかいった部分でも。日常生活に必要ないと思われるサイエンスの知識であっても、それを学ぶ過程で経験したことが意外なところで重要な意味を持つんだよね、と。

そうやってサイエンスの素養というか、基本的な知識を身につけていれば、自分が知らないテクノロジーだからといって、いきなり「得体の知れない黒魔術」に見えてしまうことも減るだろうし (ゼロになる、とはいいいきれないけれど)。

先日の、防衛産業各社が狙われたサイバー攻撃事件の件にしても、インターネットの仕組みやコンピュータ セキュリティに関する知識があれば、何が起きたのかはスッと理解できる。だけど、そもそも技術的基盤について分かっていなければ、インターネットそのものが超魔術みたいなもの。そこから説き起こしていかなければならないのは、ちと大変だったりする。

ただ、いきなり「サイエンスの教育を義務付けろ」とか「サイエンスの教育にかける時間を増やせ」というだけでは効果は薄そう。何でもそうだけれども、義務感を感じてやったところで、熱中できるもんじゃない。

そうじゃなくて、サイエンスって面白い、テクノロジーって面白い、という方向に話を持って行けると良いのだけれど、さて具体的にはどうしよう、というのが頭の痛いところ。それこそ、自分みたいな商売の出番ではないか、という気もするのだけれど。あれ、なんだか我田引水 ?

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