Opinion : 病院船構想に関する徒然 (2011/10/24)
 

東北地方太平洋沖地震の教訓を受けて、陸上の医療施設が使えなくなっても医療活動を提供できるように「病院船」について調査する予算を要求する。というニュースを見た。

しばらく前に「丸」誌で「トモダチ作戦」について書いたときに、「船は移動力も動力源もインフラ一式も自前で持ち歩いているのが利点」という趣旨のことを書いた。そのことを考えれば、医療施設を船に乗せておいて、必要なところに進出させるというアイデア、間違いだとは思わない。

ただ、単純に「病院船」を設計・建造すれば済む問題かなあ、とも思った。


軍事系趣味人に限ったことではないかも知れないけれど、ついついハードウェア偏重になってしまい、ハードウェアさえ出来上がれば八面六臂の大活躍が可能、と思ってしまう傾向が生じることがある。でも、実際にはそんな単純な話でもないわけで。

病院船ということは、陸上でいえば病院の建物と、底に収容する医療施設という「ドンガラ」ができるということ。もちろんドンガラは必要だけれども、そのドンガラが医療施設として機能するには、医師や看護師を初めとする人員が要る。いざというときに医師や看護師が本領を発揮するには、平素から仕事をしてスキルや経験を維持しておかなければならないのは当然のこと。

また、船ってひとつの機械だから、普段から動かしておかないと調子が悪くなる。それに、前述した人員の話もあるので、災害発生時だけでなく普段から「病院」としての機能を発揮させておかないと、いざというときに (物理的ではなく比喩的な意味で) 錆び付いて役に立たない可能性が出てくるかも知れない。

ばかでかい病院船を 2 隻も擁している米海軍はというと、戦争や災害がないときでも、平素から人道支援任務で各地に派遣して、医療支援を実施する使い方をしている。そうすることで相手国との信頼関係醸成につながるし、医療要員は経験やスキルを蓄積できる。そしてなによりも、病院船という仕掛けを動かすノウハウを維持できる。

じゃあ、我が国が病院船を建造した場合に、どうやって「フネ」としての機能、あるいはそこで働く要因のスキルや経験を蓄積するか、というのが問題じゃないのかなあと。米海軍に倣って近隣諸国、たとえば東南アジアあたりに送り出すのもひとつの手ではあるけれど、あまり遠方に出してしまうと、いざというときに肝心の病院船が遠くにいて間に合いませんでした、なんていうことになりかねないのが悩ましいところ。

そのことと、そもそも日本国内でも医療移設の充実度って地域差がありそうなことから、平素から国内を巡業して医療活動を展開するのもひとつの手かも知れない。いざというときに "仕事" をする場所、あるいは仕事のやり方に関する情報を蓄積できることでもあるし。

実際にそういう形をとるかどうかはともかく、まず「病院船専用」にするかどうかがハッキリしないと、ハード的な話も定まらない。専用のフネにした場合、最初から最後までずっと病院として存在しているわけだから、平素から仕事を作っておかないと前述したような問題に直面する。

平素は必要ないけど緊急時には必要、ということなら、たとえば ISO コンテナに医療関連の機材・設備・物資を格納したものをゴソッと用意しておいて、それを災害発生時に RoRo 船に積み込んで出動してはどうか。なんてことを考えた。フネの方は、広い車両甲板と船室を備えるフェリーかなにかの形をとっておけば、平時でも使い道がありそう。

ところが、「肝心なときにフネと機材が離ればなれになっていて合流に手間取りはしないか」、あるいは「機材を保管している場所が被災したらどうする」とかいうことを考え始めたら、これはこれで、あまり良いソリューションではないようにも思えた。

ひょっとすると、看板が「病院船」でも、そこですべて完結させようとは思わない方が良いのかも知れない。つまり、緊急に必要な治療を施すのは病院船の仕事、そこから先はヘリコプターか何かで被災地域以外のところにある医療施設に搬送して対処、といった役割分担。となると、その「病院船」には広いヘリ発着甲板が要ることになる。

もっとも、この話がなくても陸上から被災者を受け入れるために、どのみちヘリ発着甲板は必要だろうけれど。え、ヘリだけでは不安があるとな ? ごもっとも。
となると、海上からの輸送・受け入れも可能で、かつ港湾施設がなかったり被災したりしても大丈夫なように、ウェルドックを設けて揚陸艇で… って、それなら強襲揚陸艦を造ればよいという話に (え ?)


そんなこんなで、あれこれと考え始めるほど袋小路に入り込んでしまうという困った状況になってしまったけれども、自分よりも現場の実情が分かっている人が、現場の実情に合ったものを作って問題なく動かしてくれれば、それでいいやと。ここでは思いつくままに、書きたい放題のことを書いてしまったけれど。

ただ、「緊急事態に備えて準備しておくという性質のものほど、平時から腕を磨いて、いつでも使える状態にしておかないと、肝心の緊急事態のときに役に立たなくなってしまう」という一点だけは譲れない。といったところで、今週はこの辺で。

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