Opinion : 不安商法・恐怖感マーケティングの見分け方 (2011/12/12)
 

タイトルは「ファン商法」を typo したのではなくて、「不安商法」で正しい。

何かの危険性、あるいはリスクに対して警鐘を鳴らすのではなく、カタストロフィックな終末論にまで話をすっ飛ばしてしまい、「これでもう○○は終わりだ」「○○国は終わりだ」「速く逃げ出せ」とかいうところまで突っ走ってしまう。そうやって煽ることを商売にする人のこと。

これを「恐怖感マーケティング」と言い換えてもよいかも知れない。民心に恐怖感を振りまくことを自らのレーゾン デートル、そして商売道具にしているわけだから。でも、この手法には自ずから限界がある。そして、限界を突破しようとすると、ますます派手に不安や脅威を煽ることになり、収拾がつかなくなって破綻する。そういうのにひっかかる前に見抜いて、避けて通った方がいいよね。という話。


たとえば、自分が実際に報道に関わった分野であるサイバー攻撃事件、その中でも Stuxnet ワームの件。これ、「不安商法」「恐怖感マーケティング」のいぶり出しとしては、なかなか好適なサンプルである。

ちゃんと調べた方は御存知の通り、Stuxnet ワームはイランのウラン濃縮施設で遠心分離器をコントロールするために使用している、Siemens 製の産業向け制御システムに感染する。ところが、意図的なのかそうでないのか、「イランのウラン濃縮施設」ではなく「イランの核施設」といいかえると、そこから話が脱線してしまう。

そして、行き着く先は「原子炉の制御システムがサイバー攻撃」、さらには「原子炉の制御システムがサイバー攻撃で乗っ取られて核爆発」とかいう、本来の話とは似ても似つかないところまで吹っ飛んでしまうことがあるから笑えない。こんな話をネタでいうのも問題だと思うが、真面目に信じ込んでもらっても困る。

つまり、Stuxnet ワームの件についていえば「ウラン濃縮施設」の「遠心分離器の制御」が標的になったかどうか。これにきちんと言及しているのはまともな人、「核施設」の「原子炉の制御システム」が標的になったと思っているのは「不安商法」「恐怖感マーケティング」の人。という区別ができそうだなと。

ただし正直なところ、この Stuxnet ワームの件は分かり易すぎて、サンプルとしては具合が悪いかも知れない。いつもこういう風に、サクッと識別できるとは限らないから。いくらか悪知恵が働く人であれば、もっと上手に仕掛けてくる可能性がある。

国防・安全保証の話で「○○の脅威」について語るときでも、ちょうど真贋論争が盛大に行われている「ステルス機の残骸騒動」にしても、似たようなところがある。「何も問題はない・脅威はない」と「この世の終わり・一国の終わりというぐらいに恐怖感や不安感を煽る」の両極端ばかりが目立つのはお約束だけれど、その手の極論を両方ともバッサリと切り捨てて、中間の部分だけ残すぐらいでちょうどいい。


ただ、「不安商法」「恐怖感マーケティング」と、それらとは正反対であるはずのまっとうな「警鐘」の区別は、往々にしてつけがたいもの。「不安商法」「恐怖感マーケティング」でも、相手を信用させようと努力するのは同じことだから、いかにもそれらしい数字や図表、あるいはグラフなんかを持ち出してくるだろう。そして、それだけを見ている限りでは、つい納得して信じ込んでしまいそうになる。

でも、両者の区別は、まったく不可能な話でもないと思われる。

まず、「不安商法」「恐怖感マーケティング」における一般的な特徴として「声がでかい」「露出が多い」というのがありそう。「不安商法」「恐怖感マーケティング」を手掛ける教祖様には熱心な信者がついていて、盛大に宣伝して回る。そして、声がでかくて目立つ人であれば、刺激を求めるメディアの目にとまることも多いから、結果的に露出が増える。

そして、声がでかくて目立つ状態を維持しようとすれば、刺激の度合を強めていくしかないので、どんどんエスカレートしていくもの。そして、「危ないモノはなお危ない、危なくないといわれているモノも実は危ない」という路線に走りがち。でも、まっとうな警鐘を鳴らす人は、そこまで突っ走らない。「危ないモノは危ない、危なくないモノは危なくない」と区別して淡々と語れるのではないかと。

先に書いたサイバー攻撃の話なんかもそうで、分かっている人は「サイバー攻撃でできることとできないこと」を区別できるけれど、分かっていない煽り屋さんは「サイバー攻撃は何でもアリの万能攻撃手段」といった話になりがち。

あと、「不安商法」「恐怖感マーケティング」はえてして、反対意見・対立意見に対して攻撃的な態度をとりやすい。そして、批判とか反論とかいうレベルに留まらずに、罵倒まで行ってしまいそうではある。別の書き方をすれば、批判・反論に対する耐性が低いのも「不安商法」「恐怖感マーケティング」の特徴ではないかと。

このほか、「子供をダシに使う傾向がある」とか「"言論弾圧" という言葉が好き」とか「物事を単純二分・善悪二元論で語りたがる」とかいうのもありそうな話。

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