Opinion : アンチ経済成長をめぐる私的考察 (2012/2/13)
 

以前に「江戸時代に戻れば論」に反論する記事をライブしたことがあったけれど、今回はそれの類型で「経済成長を目指さなくてもいい」論について。
いずれも反原発論とリンクしている昨今ではあるものの、「経済成長を目指さなくてもいい」論については、反原発がワーワーいわれるようになる前から存在しているように思う。

そもそも、「経済成長を目指さなくてもいい」なんていっていられるのは、すでに日本の経済が十分に成長して、誰も彼もが満ち足りた状態になっている、という前提があるのだろうか。すでに満ち足りているから「もういいや」となるのであれば、まだ分からないでもない。

ところが妙なもので、その一方では「格差を解消しろ」とか「雇用を確保しろ」とかいう主張も声高に語られている。それって「経済成長を目指さなくてもいい」とは矛盾があるように思える。

それに、よしんば本当に満ち足りているのだとしても。自分とこが安定して水平飛行でいても、周囲が引き続き成長を続けていれば話は別。絶対的には「安定」であっても、相対的には「没落」っていえるんじゃないか。それは結果として、満ち足りた状態からの転落につながるんじゃないだろうかと。

そうなったときに、それでも「経済成長なんて不要、その方が人間的な暮らしだ」なんてことをいえるんだろうかと。そもそも「人間的な暮らし」という言葉自体、なんだか曖昧模糊としていて、都合良く使われているだけではないかと突っ込んでみたい。


そもそも、どうして「経済成長なんて要らない」と大真面目に主張できるのか。ちょっと考えてみた。

ありそうなのは、1960-1970 年代にかけての高度成長期に対する反動。つまり、高度成長期に公害などの問題がワラワラと出てきた。それに対する反発から、「経済成長を目指した陰で、大切なものを失ってしまったのではないか」と主張するのがナウい、格好いい、と受け止められる傾向が出てきた。

そういえば、「エコノミックアニマル」なんて言葉もあった。つまりは、経済成長のために身を粉にして働き、挙げ句に公害などの弊害を引き起こすのは良くない」というロジックから、「経済成長なんて不要」という話につながり、そういう主張をする方が格好良くて知的に見える、という考え方が出てきたんじゃないかという仮説。

もうひとつは、ここ 1 年ほどに限定される話だけれども、例の「江戸時代回帰論」と同じで、「原発抜きでも電力は足りる」という前提を満たすために、電力消費の方を減らしてしまえばよい、という話に持っていくための「経済成長不要論」ではないかという仮説。

後者については以前にも触れた話だから措いておくとして、問題は前者。突き詰めると、「経済成長を目指す」ことと「それに際して過去に発生した弊害」を不可分のものとしてリンクするところに問題があるわけで、弊害を抑制しつつ成長を目指す」という論がどうして大きな声にならないのか。不思議。

程度問題ではあるにしても、現状に満足・安住してしまって進歩を目指さなくなったら終わりだろ、と、特に "進歩的な皆様" に対して主張してみたい (苦笑)


そして、冒頭でもちょっと触れた話。「格差社会の解消」でも「雇用の確保」でも、はたまた「再生可能エネルギーの導入を促進しろ」でも、何をするにしても元手が要る。「経済成長しなくてもいい」という一方で元手が要るような主張を展開するのは、それこそもう矛盾の極みというもの。

たとえば、雇用を確保したければ国内で経済を回していかなければならない。産業の海外流出を避けるだけでは不十分で、むしろ海外から産業を呼び込むぐらいのことをするのが当たり前田のクラッカー。それと真逆の主張、足を引っ張るような主張をしておいて「雇用の確保」も何もないもんだと。

これ、「格差社会の解消」にも通じる話。基本的には富の配分の問題であるのかも知れないけれど、それならそれで、カネがあるところから出回って流通して、「カネは天下の回りモノ」にならないと話が先に進まないのでは。

「経済成長なんてしなくていい」という論が「前途への不安感」につながり、財布の紐を締める結果になったら逆効果。そこでルサンチマン全開になって「富裕層から税金をふんだくれ」と主張するだけで問題が解決するとは思えない。

再生可能エネルギーだって、モノにしてひとつの産業として成り立たせるには多額の投資がいるわけで、その投資をどこから引き出すんだと。経済がちゃんと回って、伸びていかなければ、投資の元手だって出てこないと思うのだけれど、これは素人の大いなる勘違いで、実は経済成長しない方が投資の元手が湧いて出てくるんだろうか ? 教えて偉い人。

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