Opinion : 戦闘機と試乗の要否 (2012/2/27)
 

個人的な戯れ言で、「近頃巷で叩かれるもの、東京電力と F-35」というのがある。とりあえず叩きやすいから叩いておく、という話ばかりが先行して、中には無理筋な批判もあるんじゃないかと思うわけだけれど。

ただ、自分にとっては専門外の話が多い東京電力の話はともかくとして、今回は F-35 の話。さまざまな批判がある中で、もっとも首をひねらされたのが「実機への試乗もしないで決めた」というやつ。何のためにシミュレータというモノがあると思っているんだろう。


ただし「実機への試乗もしないで決めた」という批判、単純にひとからげにはできない。なるほど、インド空軍では MMRCA (Medium Multi-Role Combat Aircraft) の機種選定に際して候補機種の実機を持ち込ませてテストしたし、スイスの F-5 後継機調達計画もしかり。

ただしそこで問題なのは、「実機を持ち込まないと分からないこと」と「実機を持ち込まなくても分かること」の区別。それと、「短時間のチョイ乗りでも分かること」と「しっかり乗りこなして手の内に入れないと分からないこと」の区別。それらの区別をちゃんとつけないで、単純に「実機を見ていないから怪しからん」「実機に乗ってないから怪しからん」という批判をしても、却って足元をすくわれる原因になるんじゃないかと思うのだけれど。

たとえばスイスの場合、実機を飛ばしてみるだけではなくて、候補機種の騒音計測をやっている。これは実機を飛ばしてみないと分からない種類の話。
ただし、どういう条件で飛ばすかにもよる。実運用に近い条件で飛ばした上で騒音を計測しないと、計測したときと実運用時でデータが食い違い、何のために実機を持ち込んで騒音計測をやったのかが分からなくなってしまう。

極端な話、クリーン状態・A/B オフで上がったときの騒音計測データを真に受けたら、実運用ではフル装備・A/B オンで上がってました、なんていうのでは計測の意味がない。

では、実際に乗って操縦してみる方はどうか。熟達したテスト パイロットであれば、対象とする機体の資料を見せられた上で自分で試験内容を組み立てて、それに基づいて実際に飛ばすことはできると思われる。ただ、そこで問題なのは、前述した、2 パターンの区別の話。

それに、テストパイロットが実機を飛ばしてみて報告書を書いたのだとしても、それを読んで判断するのは、もっと上の立場にいる人ではないだろうか。報告書に書かれた文言を見て判断するのでは、(その過程で内輪の人間が実機に乗っていたのだとしても) 情報としては間接的、セコハンになってしまう。それをもって「試乗して決めたのだから大丈夫」っていう話になるんだろうか。

さらにいえば。もしも「試乗しないで決めたのは怪しからん」と主張している人が、単に「クルマを買うときでも試乗はするのだから、戦闘機ではなおさら」というぐらいのつもりでいっているのだとしたら、その 2 パターンの区別のことまでちゃんと考えているのかどうか怪しい。

だいたい、クルマの試乗にしても、初めて乗るクルマをいきなり全開で攻め立てて、限界性能を発揮させるなんて人は滅多にいないんじゃないかと思うけれど、どうなんだろう ? さらにいえば、発売前のモデルを早々に註文する (もちろん試乗なんてしていない) 人だって少なくないけれど、そういう人の方が、むしろ普通よりもクルマ好きであったりする。

かく申す自分自身、1 台目の GXE10 アルテッツァは試乗せずに注文書にハンコを押している。でも、後悔なんてまったくしなかった。そんなもんである。

今の BP5E レガシィは最初に試乗しているし、その時点で「おお、足回りがガッチリしていて頼りになる」ぐらいの印象は受けたけれども、その時点ですべての真価を把握できたなんてことは、口が裂けてもいえない。実際に自分が註文したクルマがやってきて、何ヶ月もかけて走り込んで、それでやっと「分かってきた」といえる。だいたい、試乗したのは AT 車だったけれど、註文したのは MT 車である (笑)


最初、「いきなり未知の機体に試乗して操縦してみて、『おお、すげえ加速力だ』と感心するぐらいで決めていいのか」なんて書きそうになったけれども、さすがにそれは論旨が乱暴すぎる。それで考え直した結果、前述した 2 パターンの区別の話を持ち出した次第。

ただし、モノがいまどきの戦闘機となると、そもそも「飛行機としての性能」だけでは良し悪しを測れない。ウェポン システムとしてどうか、System of Systems の構成要素としてどうか、という話の方が重要。

そういう観点からすると、「試乗もしないで決めた」という批判は、プラットフォーム セントリックな発想じゃないかと思う。プラットフォームとしての良し悪しは実機に乗る方が分かりやすいだろうけれど (ただし、公正な評価軸をきちんと設定した上での話である)、ウェポン システムの一員としての評価であれば、また話は別。それはシミュレータを利用することでも対応できるわけだから。

そもそも、敵が何者で、どこにいて、どちらに向かっているのかをちゃんと把握できなければ、その敵機がいるところに出向いてチャンチャンバラバラやることはできない。だから、まずは状況認識の能力がちゃんとしていないと、制空/防空という任務をこなすシステムの一員たる戦闘機としてはダメである。

そこのところが分かっていないと、プラットフォーム セントリックな物言いしかつけられないのではないかなあと。そんなことを考えてしまった。せめて「試乗して○○をチェックしていないのは問題だ」まで書いてくれれば、まだイイと思うのだけれど。

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