Opinion : ノマド ワークが通用する場面は限定的 (2012/3/12)
 

昨日の日記にも書いたけれど、"business as usual" ということで。

で、今回のお題は、最近になって突如として (?) 持て囃されるようになったらしい言葉であるところの、「ノマド ワーク nomad work」。「そういえば、GAF Nomad なんていう旅客機があったな…」と、そういう話ではなくて。

なんでも「ノマド」とは「遊牧民」のことだが、遊牧民さながら、仕事場を決めずに、あるいは定期的に移動しながら仕事を行うスタイルのことなんだそうである。でも、そんなもん、ハナから「実現可能な業種」と「実現不可能な業種」が明確に分かれてしまうだろうに。


当たり前の話だけれど、まず固定的な設備を必要とする商売は全部駄目。モノを製造したり加工したりする産業は必然的に、そのための設備がある場所から離れられない。農業はいわずもがな。

プログラマーや物書きみたいに、ノート PC に仕事の環境を詰め込んで持ち歩ける業種でもなければ、そもそもノマド ワークなんて成り立たない。世の中に存在する多種多様な職業の中で、仕事の環境を携帯可能なサイズと重量の範囲内に詰め込んで持ち歩ける種類のものが、いったいどれだけあるだろう。全体からみれば、ごく僅かでしかないと思うのだけれど。

それに、ノマド ワーカーの典型みたいにいわれる物書きとて、本当の意味で固定的な拠点を持たずに仕事ができるかというと、そうでもない。たとえば、紙の資料を全廃できるかというと、なかなかそうは行かないので、結局はそれを置いておくホームベースが必要になる。

それに、インターネット全盛の御時世であっても FAX で連絡をとる場面は発生するし、あいにくと FAX の受信は移動体通信だと難しいのでは。
と、ここまで書いたところで「送信はどうだろう」と思ったけれど、FAX モデム付きのノート PC (おっと、これ自体が減ってきているか) と、しかるべきソフトウェアがあればなんとかなりそう。そういえば、「コンビニ FAX」って今でも存在するんだろうか。

閑話休題。FAX だけでなく、紙の書類だって案外と行き来するものである。そもそも、商業出版物に関わっている限り、「ゲラ」というものからは逃れられない。たまに PDF で校正を済ませるケースもあるものの、全部が全部、そうなっているわけでもない。

とかいうことを言い始めると、きっと「いや自分のところは違う」という反論が出てくると思うし、実際、上で書いたような話が該当しない人もいるだろうと思う。

そこで問題なのは、かようにノマド ワークを実現しやすい人と実現しにくい人が別れているということ。単純に業種で区切れる話でもなくて、それぞれの業種の中でも分野ごとに事情が違うだろうし、同じ業種・同じ分野でも人それぞれ、というのが実情なのでは。

となると、そういう話を無視して十把一絡げに「○○の業種はノマド ワーカー向き」とかいって話題にすること自体、そもそも乱暴なんじゃないかという話に落ち着きそうである。

なにもノマド ワークの話に限らず、特定の成功事例、目立ちやすい事例だけを引き合いに出して、それを一般化して誰にでも通用する話であるかのように扱い、煽り立てる話は少なくない。それにホイホイ乗せられると、乗せられた本人が後になって「こんなハズじゃなかった」と頭を抱えることになりがち。

それはたとえば「もう社畜なんて止めて独立起業してしまえ」とか「日本に閉じこもってないで海外に雄飛せよ」とかいう類の話でも同じこと。誰も彼もが、業種・職種に関係なくフリーランスで商売できるわけではないし、実のところ、フリーランスにつきものの制約やリスクというものもある。でも、煽る人はマイナス点をスルーして耳当たりのいい話だけ強調するから注意が必要。

そういえばかつて、「満蒙開拓」とかいう話が煽られた挙げ句に、開拓民をソ聯軍の前に放り出してしまった歴史がありましたな。

似たようなところでは、「○○婚」とか「○○恋愛」とかいって、特定の組み合わせパターンをフィーチャーして、お洋服と同じように流行させようとするのも同じ。いちいち事例を挙げ始めるとキリがないので、これぐらいにしておくけれど、探せば似たような話はなんぼでも出てくるはず。


お洋服の流行ぐらいなら経済活性化になるから問題はないだろうけれど、ことに生き方・働き方に関わる問題に関して、耳当たりのいい話、格好の良さそうな話ばかりを強調して流行りものにしてしまうのは、どちらかというと「功」より「罪」の部分の方が多いのではないかと思う。

もしも後になって何か弊害が発生しても、煽った側は知らん顔を決め込むのがオチだろうから、自分できちんと判断して意志決定しないと、結局は自分が泣きをみる。

だから、「ノマド ワークって、なんか良さそう」と思っても、そこでいきなり突っ走るのはお薦めしない。それが自分の仕事や生活のスタイルに合うのかどうか、どういったマイナスやリスクがついて回るのか、までちゃんと確認するべき。そこまでやって「それでもメリットの方が大きい」と判断したら、そこで初めて実現に踏み切れば済む話。

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