Opinion : 何でもかんでも手に入るものじゃない (2012/5/7)
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以前に「万人に好かれようとしても、結局は誰にも好かれないで終わるのでは」という趣旨のことを書いたような気がする。そういえば、某テクノ スリラー小説だったか、それとも戦記物だったか、「すべてを守ろうとするものは、すべてを失う」なんて書いていたものもあった。
よくよく考えれば、これって特定の分野や業界に限った話ではなくて、たいていのことに適用できそうな話ではないかと。
たとえば、依然としてネット界などで燻っている F-X の機種選定に関する不満。F-35 といえば「価格」「スケジュール」「見てくれ」「最高速度」あたりを主なネタにして叩かれるのがお約束になっているけれども、あれこれと出回る悪口や不満、それに対する解決策を並べてみると、こんな戦闘機が必要になってしまう。
現時点で存在する、あるいは予見可能な将来に登場する競合機を凌駕するカタログ性能を備えていて、
ステルス性はもちろん備えていて、
格好悪いのは当然ながらダメで、
スーパークルーズが可能でダッシュ力にも秀でていて、
航続距離が短いなんてトンでもなくて、
兵装搭載量も十分で、
当然ながら国産兵装の搭載も可能で、
データリンクもセンサー融合機能もその他の状況認識関連機能も電子戦機能も世界最高レベルで、
同盟国との相互運用性はバッチリで、
スケジュールの遅延やコストの上昇とは無縁で、
国内メーカーの手で自主開発、それがダメならせめてブラックボックスなしのライセンス生産が可能で、
価格は海外から輸入する競合機と同等ないしはそれより安価で、
ライフサイクルコストについてもしかり、
各種の趣味的欲求も満たしていること (おい)
悪いけれど、そんな欲張りな条件をすべて満たせる戦闘機が実在する、あるいは実現可能であれば、私は逆立ちして三べん回って帽子を食べてみせる。だいたい、上で並べてみた条件の中には、どう見ても両立し得ないだろ、というものがいろいろ含まれているわけだし。
結局のところ、矛盾する、あるいは実現が不可能ないしは困難な諸条件の中から、どれを採ってどれを捨てるか、という優先順位付けとトレードオフの問題になるのに、それを分かっていないで何でもかんでも手に入れようとする。そんなことをすれば、何も手に入らない。
似たような話は、例のツアーバスの事故についてもいえる。さっきの F-X の話と同じノリで列挙してみるならば。
移動の手段なのだから、当然ながらスピードは速い方がいいし、
運賃は当然ながら安上がりで、
予約・チケット購入の利便性が高くて、
後日のキャンセル・変更に何の制約もなくて、
もしも何らかの事情で正常運行ができないときには速やかに代替便の手配をやってくれて、
客室は広々・快適・清潔、
いうまでもなく安全については手を抜かず、
乗務員などの待遇が「ワーキングプア」といわれるようなレベルということは断じてあり得ず、
労働環境が「ブラック企業」と呼ばれるような内容であってはならず、
日本語力が怪しかったり外国出身だったりするのは論外で、
ダイヤの乱れも起こさない
そんな欲張りな条件をすべて満たせる公共交通機関を実現することができたら、それは神である。
ある条件を実現しようとすれば、他の条件を何か捨てるしかないのが普通で、その中でどうバランスをとるか。そこで周辺の環境も加味しつつ、各社各様の判断をした結果として存在するのが現在の各種の公共交通機関。いや、これは他の業界、たとえば飲み屋でも何でも同じこと。
そういう事情を無視して、ありとあらゆる要求を実現させようとしても、それは無理な相談というもの。激安を求めるなら、それを実現するためのマイナスを受け入れる。マイナスが受け入れがたいものであれば、激安そのものを諦めるか、激安の度合を引き下げる。
そうやって互いにトレードオフと妥協によって歩み寄って、最適解・最適な落としどころを模索していく。そういう考え方ができないと、必ずどこかで破滅・破綻がやってくるんじゃないのかなあと。そのことを改めて書いてみたかった次第。
電力の話なんかも似たようなもので、「地球温暖化阻止」「料金は上げるな」「安定供給を確保しろ」「東電は賠償しろ」って… それを全部実現できたら世話はない。そういえば最近、「地球温暖化阻止」を声高に叫ぶ人、以前ほど目立たなくなったような印象があるけれど、実際にはどうなんだろう。
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