Opinion : ソフトあってこそのハード (2012/5/14)
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この週末に北海道に行って、「カシオペア」で東京に戻ってきた。シンプルにまとめるならば、「当節に豪華夜行列車を標榜するならば、これぐらいのレベルは必要だよなあ」というところ。
それは単に、オール A 寝台であるとか、そのすべてがトイレ・洗面所付きの個室であるとか (スイートなんかだとシャワー室までついてるけど)、ゴージャスなフランス料理や和食を出すとかいう話ではなくて、そういったハードウェアやインフラの威力を存分に発揮させる接客サービスまで含めて、という意味で。
単にハードウェアさえあれば完成というわけではなくて、ハードウェアが持っている性能・機能・能力をキチンと発揮させるのは、結局のところ、それを活用する「人」であり「ソフトウェア」だよね、というのがキモ。
だいたい、何が驚いたって、ウェルカム ドリンクが部屋に届けられたときに「明日の朝にモーニング ドリンクをお持ちしますが」といって、種類だけでなく時間まで訊かれたこと。時間を指定して届けてもらえるというので、まずビックリした。そして翌朝、ちゃんと指定のモノが指定の時間に届けられたけれども、複数の部屋で時間帯が重複したら、どう解決するんだろう ?
朝食にしても、効率を考えれば全部まとめて出す方がいいのに、メインディッシュや食後のコーヒー/紅茶はちゃんと、暖かい状態で個別に出してくるのだから、厨房もホールも大変そうである。そういえば、お弁当に載っていた昆布がちゃんと「北海道」の形に切り抜いてあったけれども、これもソフトウェアの部類に属する演出か。
その、接客やサービス、その場その場でアドリブ的に満足度を高めるために発揮する工夫という点で定評があるのは、JR 九州。自分が比較的最近に経験したところでは、「はやとの風」や「いさぶろう/しんぺい」がある。これだって、車両や接客設備というハードウェアだけで皆が満足して帰ってるわけではあるまい。
あと、「カシオペア」だけじゃなくて「サンライズ」の 285 系にもいえることだけれど、個室化して個別に接客設備を充実させれば、それだけ掃除や機器のメンテが大変になる。でも、それをちゃんとやらないと、たちどころに利用者の満足度が下がる。そういう作業をいかにして切り回すか。これだってソフトウェアの部類に属する話。
といったところで話は突然飛んで。
「そーいえば、F-X の機種選定がらみでも、スペックがらみでハードウェアの話をする人はたくさんいるけれども、TTP (Tactics, Techniques, and Procedures) の部類に属する話をしている人って、あまりいなかったなあと思う。
念を押すと、TTP である。TPP ではないので「T」と「P」の字が合計 3 文字並んでいるのを見て反射的に吹き上がらないように、注意していただきたく。おっと、閑話休題。
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いつも書いてるように、どんな機体にでも長所と短所があるのだから、結局のところ、「いかにして長所を引き出しつつ短所を突かれないようにするか」という工夫が必要になるのは、どんな機体を使っていても同じこと。単に「F-22 を配備しておけば日本の防空は安泰」なんて話でもあるまいに。
それどころか、高度な性能・機能を持つ機体であればあるほど、その性能・機能を発揮させるためのインフラ整備や TTP の工夫が求められるんだろうに、そこまで含めて論じてた人ってどれだけいる ? と突っ込んでみたい。機種に関係なく。
「日本は専守防衛で、広いエリアをカバーする要撃戦闘がメインなのだから、加速力と航続性能が大事で云々」なんてことを書く人はたくさんいるけれども、なんだかそれって「戦闘機は格闘戦性能が第一、舵が軽くて小回りが効かなければならない」という類の主張とダブって見えるのだけれど。
一見したところではソフト的な話をしているようだけれども、実はそれってハードウェア優先、「こういうスペックのハードウェアが必要」という枠からは出ていない。「ハードウェアの性能をいかにして発揮させるか」「長所を引き出し、短所を抑えるにはどうするか」という話ではない。
そういえば、その格闘戦につり込まれて散々な目に遭った後で、高速性能・高々度性能・重武装という特質を発揮させるべく一撃離脱に戦術転換した P-38 という機体があったなあ、と書き足してみる。
そういう意味では、F-X で F-35 の採用を決めたのは、ことにインフラ整備や TTP の開発という見地からすると、もっともハードルが高い道を選んだということ。おそらく、これまで「こういうやり方が正しい」と考えて、維持してきたことをひっくり返さなければならない場面も出てくるのでは。それをやる覚悟があれば、それに見合った成果を引き出せると思う。
どうしても、目に見えるハードウェア、あるいはそのハードウェアが備えるスペックの優劣だけで物事を論じてしまうことが多くなるけれども、それでは話が一面的、かつ不十分である、という話に落ち着く。どんなハードウェアでも、それを使いこなして能力を発揮させるソフトウェアがあってこそ。
場合によっては、ソフトウェア側からの要求でハードウェアをいじることだってあっていい。もちろん、そのソフトウェアにしても運用経験を蓄積しつつ、日々、改善を重ねていくものであって、最初に完成品を作ったらそれで終わり、なんてことはないだろうし (そもそも、何をもって「完成品」とするのかという議論もあるけれど)。
ともあれ、目に見えるハードウェアだけではなくて、それをいかにして使いこなすかというソフトウェアの部分に、もっと目を向けてもらいたいぞと思う次第。なお、ここでいうハードウェアとは必ずしも「形があるもの」とは限らなくて、たとえば制度・法令・組織なんていうのは、どちらかというとハードウェアとして扱う方が良いかもしれない。
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