Opinion : 高速道路ループと閾値の話 (2012/5/28)
 

どういう風の吹き回しか、今頃になって「新東名を利用してループ走行する不正が横行している」というニュース記事が登場。
それに対して「ループ走行できるような道路を造った方が悪い」とか「それをいうなら、どうして本線上のチェックバリアを撤去したんだ」とかいうコメントがワラワラと。しまいには、民主党に八つ当たりする人まで出てきている様子。それはさすがに八つ当たりだろうといいたいけれども、それが本題ではなくて。

そもそも、高速道路ループという遊び (まさか仕事でやっている人はいるまい)、なにも新東名の開通で初めて可能になったわけではない。ちょいと高速道路の路線図をみれば分かることだけれども、すでに実行可能な場所はたくさんある。そして、高速道路の路線網が拡充すれば、さらに実行可能な場所が増えるのは明白。


規定上は、「最短距離の 2 倍を超える走行については実走距離に相当する通行料を支払う」ということになっている。ところが問題は、その実走距離をどうやって把握するんだという話。「どこから入って」「どこから出るか」だけを基本にしてチャージすると、ループみたいな現象が起きるのは避けられない。

ただし、ループすれば所要時間が大幅に伸びるから、入場時刻と出場時刻の差が一定の閾値を超えた場合にエラーを出す、という手もある。しかし、これはこれで閾値を決めるのが難しい。渋滞、休憩、事故やその他のトラブルなどで、通常時を大きく上回る所要時間になる可能性は常にあるから。

さらに、高速道路の中、あるいは隣接する施設で寝泊まりできるケースもあるし、施設がなくても車中で仮眠をとることだってある。となると、そういうファクターも考慮しないと冤罪続発である。だからといって閾値を高くとりすぎれば、閾値を設定しないのと同じことになってしまう。結局のところ、極端なケースのいぶり出しがせいぜい。

全車の経路を精確に追跡・把握しようと思ったら、入口でナンバーを読み取り、本線上では JCT と JCT の間にすべてナンバー自動読み取り装置を設けて、出口でもナンバーをチェックする必要がある。ひょっとすると、読み取ったナンバーの情報と ETC カードの情報を紐付ける仕組みが必要かも知れない。

でも、そんな仕掛けを設置した日には、きっと「プライバシーの侵害だ」と非難囂々になる。それに、システムを開発・整備・運用する費用や手間は膨大なものになるし、蓄積されるデータ量は馬鹿にならない。それでいて、全体からすれば (たぶん) 少数でしかない高速道路ループを把握するための投資にしかならないのであれば、どうみても割に合わない。

つまりは、その「規定通りかどうかを完全に、漏れなく把握するための手間や費用の問題」と「それによって得られるメリットの問題」を天秤にかけた結果として現状の料金収受の仕組みがあり、その間隙を突かれてしまったのが高速道路ループである、と。そういう話なのではないかなと。

ただ、だからといってループが横行するのでは具合が悪いということで、「不正通行になるから正しく申告せよ」と宣伝するために、ニュース記事という体裁をとって、一種のキャンペーンを仕掛けたのではないかと。そんな推測をしてみた。つまり、広告料を払っていないものの、件のニュース記事の位置付けは、記事体広告に近いのではないかという話。

でも、記事にしたことで却って、高速道路ループという遊びの存在を広めてしまってないか ? それでは「逆記事体広告」である。

もっとも、高速道路会社の側にも突っ込みどころはある。「2 倍を超えたら…」というけれども、その「2 倍」という数字はどこから出てきたのか。どうして「1.5 倍」でもなければ「3 倍」でもなく「2 倍」なのか。

まさか、ありとあらゆる走行パターンを組み合わせて解析して、ループすれば必ず 2 倍を超える、3 倍だと漏れが出る、と判断したわけでもないだろうし。第一、高速道路の路線網は新規開通や JCT の構造変更でどんどん変わっていくのだから、その度に計算し直して閾値を見直していたら、収拾がつかない。

「複数の走行ルートがあって、既存ルートに対して短絡ルートが発生した場面を想定して、キリのいいところということで決めた閾値だろう」と推測してみたけれど、実際のところはどうだろう ?


この手の、「本当に完璧を期そうと思ったら手間や費用がかかりすぎるから、程々のところで曖昧さを残した妥協をしている」事例、なにも高速道路の通行料に限らず、探せばいろいろと出てくると思う。

ただ、だからといって調子に乗って盲点を突くようなことばかりやっていると、「手間や費用がかかってもいいから、規制したり取り締まったりするべきだ」とかいう方向にエスカレートして、社会全体のコストを押し上げる方向に働いてしまうリスクもありそう。すると結果として、社会全体にとっての損失になってしまう。

あれ、なんだか先週に書いた「規制緩和」の話と似た部分があるかも。というところで、今回はこの辺で。

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