Opinion : 無菌状態は危険状態かも ? (2012/7/16)
 

といっても、医学的な話ではなくて、社会的な意味での話。

2012/7/15 付の朝日新聞に「旧ユーゴスラビアに輸出したカッパ ロケットの技術が、地対空ミサイル開発に転用された」という趣旨の記事が載っていた。「先方が軍事転用しないと約束したので輸出した」「でも、軍事転用の疑惑があった」「それが実際に裏付けられた」という内容。

ただ、そこで「軍事転用される可能性がちょっとでも存在するものは輸出するな」という結論に持っていかなかったのは、さすがにこれを書いた記者の人もまともな判断をしたなという印象。そもそも、そんなことは不可能だし、本気でやろうとすれば、輸出できないものだらけになってしまう。タフブックしかり、ランクルしかり。

しかし、いわゆる「100% 安全論者」の人だったら、「100% 軍事転用されないと断言・保障できるものだけを輸出しろ」と本気で主張しそうではあるけれど。


もちろん、「先方が軍事転用しないといっていたので信じた」というのも、それはそれでお人好しな話ではある。欲しいテクノロジーや製品がある国は、軍用の製品やテクノロジーというと入手が難しくなるので軍事転用が可能な民生品に着目するものだし、もしもそこで疑われれば、ウソのひとつぐらい兵器で、もとい、平気でつく。

その直近の典型例といえそうなのが、先日に Pratt & Whitney Canada が米司法省に罰金を払う羽目になった、中国向けのヘリコプター用エンジン輸出の一件。もっともこの一件の場合、輸出した側も「実は軍用品の輸出に該当するんじゃないか」という自覚はあったようで、それでも中国市場獲得に向けた足がかりにする方を優先して目をつぶり、虚偽の申請をして輸出したということらしいのだけれど (というのが司法省の説明)。

おっと。Pratt & Whitney Canada のことをあげつらうのが目的ではないのだった。

いわゆる武器輸出三原則等に関する個人的見解の詳細は、過去に何回も書いてきているから繰り返さない。「日本は平和国家だから武器輸出は一切しません」であれ、反対に「日本は武器輸出を一切しないから平和国家です」であれ、とどのつまりは自己満足に過ぎないんじゃないか、という話になるのだけれど。

その話とつながってくるのではないかと思ったのは、「そうやって自国を一種の無菌状態に置いていたら、民生品の輸入という名目、あるいは偽りの下で軍事転用が可能なテクノロジーや製品を輸入しようとしている相手に対する、一種の嗅覚みたいなものが働かないんじゃないか」ということ。

そこで「オマエは嗅覚を磨くための練習として武器輸出しろというのか」と斜め上な方向にキレられても困るのだけれど。ただし少なくとも、平素から国際的な武器取引の世界に関わり、さまざまな国の情報・状況に接しているだけでも、ちょっとは違うんじゃないの、とはいいたい。

だから、たとえばアメリカであれ、あるいはヨーロッパ諸国であれ、武器輸出規制をどういう内容にして、どういう形で運用しているのか、それでどういう問題が出たのか、どういうところで運用が難しくなっているのか、といった情報を調べてみたらどうだろうと。

そこで、「武器輸出三原則等」という殻の中に閉じこもって「見ざる・いわざる・聞かざる」を決め込み、「存在して欲しくないものは存在しないことにする」という態度では、「輸出しないんだから調べなくていい」と言い出す人が出て、その手の情報を手に入れようというドライブが働かないし、嗅覚だって磨かれないと思う。

なにも武器輸出規制の話に限らず、よその業界でも、上の段落の後段部分に似た話はいろいろありそう。


よくしたもので、イギリスに続いてフランスやオーストラリアとの間でも、共同開発に向けた枠組み作りとかなんとかいう話が出て来ている (実際にどういう話になるかは今後の動向次第だけれど)。

その手の話が具現化して共同開発に舵を切るのは結構だけれども、それだけじゃなくて、産業政策とか輸出規制とかいった分野についても、先方に接触して話を聞いたり、事例を調べたりできれば、それはそれでまた、日本にとって良い話なのではないかと思う。どうだろう ?

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