Opinion : お引っ越しは楽じゃあない (2012/7/23)
 

最近、軍事関連の話で何か自分の考えや意見を書くというと、仕事用の原稿を舞台にすることが多くなって、ここで書くことが少なくなってしまったような。それだけ、軍事系物書きとしての仕事の比重が上がっている、ということかもしれないけれど。

実は MV-22B 配備の話も例外ではなくて、すでに某所向けに 1 本書いてある。それとバッティングしてもまずいので、意識的に MV-22B の話には触れずに来た。

その MV-22B の話と関連して、当然ながら「在沖海兵隊の存在そのものに起因する地元の負担」とかなんとかいう話も出てくる。負担がない、なんていうつもりはないけれども、どこか別の場所に移転するにしても、簡単に (?) 考えている人がいやしないだろうか、なんてことが気になった次第。


先日に刊行した拙著「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」の初めの方で、「空軍基地をひとつ開設するのに何が必要か」という話を書いたけれども、なにも空軍基地に限らず、海軍でも陸軍でも海兵隊でも、内容に差はあれ、同じような話は出てくる。

それを在沖米海兵隊の移転話に適用すると、つまりは「移転先の場所を見つけて兵舎を建てれば済む」というレベルの話なのかいな、という話になる。そもそも、その兵舎からして数千人、部隊や支援組織の規模によっては万単位の人数になるのだから大変なのだけれど、それだけでは済まない。

自衛隊でも米軍でも、昔みたいに「メシ上げ」して寝起きしている兵舎まで食事を持ち帰って食べるわけではないから、厨房施設に加えて食事をとる場所も要る。頭数が多いだけに、それだけでも馬鹿にならない規模になりそう。

もちろん、拳銃・小銃から車両・火砲まで、多種多様な装備を保管・整備する施設も要るし、そこで使用するスペアパーツや各種消耗品を保管する施設も要る。もちろん弾薬庫も要る。フォース プロテクションの観点からすれば、侵入防止や警備のための施設も要る。指揮・統制の観点からすれば、秘匿性を確保できる通信施設だって要る。

さらに陸上戦闘部隊の場合、演習場やその他の訓練施設が要る。屋内の射撃場だけで済むはずもなく、野戦環境での訓練が可能な環境と広さを備えた施設が。それも可能であれば、装備している火砲の射程に見合った広さの (でないと、最大射程で撃つ訓練ができない)。

ことに訓練施設の場合、単に野原の演習場があればよいとは限らない。たとえば、ジャングル戦訓練施設を擁している部隊を移転させるとなった場合、移転先が温帯や寒冷地ではジャングル戦訓練施設を作れない。海兵隊だと、内陸の海なし施設というわけにも行かない。

また、兵舎や整備施設や訓練施設やその他の施設があれば、そこと外部との間で人や物や車両を行き来させるためのインフラも要る。港湾や飛行場と連絡する手段として、基本となる道路網、場合によっては鉄道も必要かもしれない。

そういえば、昨年 5 月に沖縄に行ってレンタカーで走り回ったときに、キャンプ シュワブの近くも走ったのだけれど、演習場に通じるものとみられる道路が外部の道路とつながるところに、ゲートを設けてあるのを散見した。東富士演習場と似ているなあ、と思った。

それに、千人単位、万人単位の人が暮らす施設ができれば、そこでは食事から装備品に至るまで、べらぼうな品目と量の物資を消費するから、それを納入する仕組みも必要になる。自著で書いたところの「自己完結能力の尻尾」の終端である、モノや装備を納入する業者のネットワークという形で。

単に近所に業者がいればいいというわけではなくて、価格や信頼性、供給能力といった条件も勘案しなければならないから、「誰でもいい」というわけにはいかない。ちなみに、見えにくいけれども必要なモノとして、電力や水道という話も含まれる。

とかなんとか、具体例を挙げ始めるとキリがないけれども、要は、「兵舎だけ別の場所に移せば済む」という話ではないよね、ということをいいたかった次第。


「県外移転」とか「国外移転」とかいう主張をするな、なんてことはいわないけれども。ただ、その移転を実現するのにどれだけのモノ、ならびにモノではないその他の諸々を動かさなければならないのか、(米海兵隊に限らないけれども) 軍事力を動かすのにどれだけの人やモノや仕事や組織が必要なのか、というところまで、少しは考えてみてもいいのではないかなあと。そんなことを思った次第。

あと、ちょうど blog で書いた、能勢さんの「防衛省」という本にも関わってくる話で、戦闘部隊以外もひっくるめた組織とか法制度とか、あるいはその他いろいろの要素にも、ちょっと目を向けてみていいのではないかなあと。

これってなにも軍事組織に限らず、実は会社でも似たようなところがあるのでは ? そう考えると、会社における総務・法務・経理などの所謂バックオフィスって、実はとても重たい仕事をしているのだと再認識する。

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