Opinion : 武器輸出規制に関する徒然 (2012/7/30)
 

国際的な武器取引に関する条約を作ろうとして国連で交渉を進めていたものの、話がまとまらずに決裂したとのこと。

特定の分野だけを対象とする軍縮会議でもモメるのに、通常兵器の分野で国際的かつ包括的に、しかも保有ではなく取引を規制しようとすれば、それはもう、各国の思惑や利害関係がぶつかってしまい、容易にまとまらないのは誰でも予想できる話。

もちろん、最終的な理想として今回の条約案みたいなものが具体化できれば理想的ではあるけれども、いきなりそれを実現しようとしたら、いつになっても不可能ではないか、と考えてしまった次第。


だから、いきなり包括的な武器取引規制をかけるよりも、まずは重要性の高い分野を対象として規制をかけつつ実績を作っていく、というやり方の方が現実的ではないかと思うけれども、どうだろう。といっても、これも対象分野によっては大モメ間違いなしである。

すでに、大量破壊兵器の拡散阻止については国際的にそれなりのコンセンサスができてきているし、弾道ミサイル技術のように、実際に規制している事例もある。だから、これはこれでいいとして、次に規制するべきは、現時点でもっとも厄介な課題になっている不正規戦・非対称戦に関連する分野ではないかと考えた。つまり、小火器、対戦車兵器、ロケット弾などといった面々。

と書いてはみたものの。
身も蓋もないことを書いてしまえば、「国家」が銃や銃弾の輸出を今から規制しても、すでに大量に出回った分はそのままだし、パキスタンの山奥で個人経営の鉄砲鍛冶が密造している AK47 まで規制するのは物理的に難しい。規制しないよりもする方がいいに決まっているけれども、それでどれだけ紛争や犠牲者を抑制できるだろうかと考えると、悲観的になってしまう。

むしろ、刀狩りならぬ銃狩りが大事なのだろうけれど、これは言うは易く、行うはなんとやら、なんてレベルじゃない。ごく稀に成功事例があるものの、紛争地帯で行われた武器回収プログラムの大半は「悪戦苦闘」ないしは「成果につながらず」ではないかと思われる。

それでも、出回っている武器を回収して減らさないことには、それによる犠牲者をなくすこともできない。個人の意識や文化に依存する部分も多い問題だけに、単におカネをかけて買い上げれば済むという問題でもない。さて、どうしたものか…


もうひとつ優先的に規制を強化することが必要ではないかと思うのが、軍民両用品。ハイテク製品を中心として、すでにワッセナー アレンジメントで規制の対象にしているものもあるけれど、果たしてそれだけで十分なのかどうか。

では、なぜ軍民両用品の規制が必要なのかというと、規制によって武器の入手に不自由した国や組織は往々にして、軍民両用品を抜け穴に使おうとするから。「民生品」との名目で、一見したところでは民生品に見える品物を輸入しておいて、後でそれを武器に転用する。よくある手口である。

ただし、具体的な対象品目を決めたり、それを実効性のある規制の形に纏め上げるのは簡単ではなさそう。それに現実問題として、相手が本当に民生品として使うつもりなのか、それとも武器に転用するつもりなのかは、表面的には把握しにくい。

厄介なことに、「武器」扱いのものを売ってもらえないからといって、意図的に「軍民両用品」の入手に力を入れている国もあるぐらいだ。面白いのは、いざその手の話について突っ込まれると「そんなことはない、自主開発している」と言い張ることが少なくないところ。これはやはり、後ろ暗く感じているところがあるので、そういう言い訳に走っているのか ?

こういう状況があるので、「軍民両用品の取引に規制をかける」なんていう話が出てくれば、また百家争鳴、喧々囂々、侃々諤々の大騒動になって、いつになっても話がまとまらない可能性がある。

とどのつまり、国連のレベルで何か規制案をまとめようとしても駄目で、問題になりそうな品目を輸出している国が自主的に規制するのが、もっとも現実的な落としどころかもしれない。

その際には、相手の "日頃の行い" をベースにして「○○は過去の実績からいって輸出しても大丈夫、△△は過去の実績からいって怪しい」といった具合に判断するしかないかもしれない。しかし、これはこれで主観が入り込まざるを得ないので、紛糾しそうである。ただ、こういうことばかりいっていると、何も規制できなくなってしまうのも事実だけれど。

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