Opinion : いわゆる領有権問題をめぐる徒然 (2012/8/20)
 

しばらく前に「丸」で、フォークランド紛争の特集に関連して「イギリスとアルゼンチンが、また刃を交える羽目になったら、どうなる」という趣旨の記事を書いた。ちょうど、特集を企画した時点で両国がフォークランド諸島の領有問題を蒸し返していたので、そういう企画が出てきたのかも ?

といっても幸いなことに、いくらか蒸し返した程度で終わり、刃を交える羽目にはならずに済んだ。両国とも、この件で花火を上げない程度に留める良識は持ち合わせていたようなので、まずはひと安心。「もし戦わば」の記事を書いた自分自身、記事が紙面に載った時点では事態が沈静化していたので、正直いってホッとした。


なんて話を持ち出したのは、ちょうど尖閣諸島や竹島をめぐって、「あっち側」と「こっち側」の両方でいきり立っているから。

森本防衛相が「内政問題」という言葉を使ったのもむべなるかなで、韓国の大統領がこの時期に竹島に乗り込んだのが自国内向けのアピールなのは、多分、間違いないと思われる。これに限らず、他国との間で抱えている領土問題を政治的に利用する事例は掃いて捨てるほどあるけれど、「はっきりいって、賢いやり方じゃないよね」と思う。

「我が国固有の領土である○○を、△△国が不法に占拠していて怪しからん」とか「我が国固有の領土である○○について、△△国が領有権を主張するのは怪しからん」という類の話は分かりやすいから、国民世論に対してアピールしやすい一面がある。

それを利用して支持率の引き上げや国内の結束、あるいは不満そらしを目論む誘惑に駆られる政治家は、決して少なくなさそう。でも、動機がどうあれ、火が消えていた (はずの) ところに火を点けたり、ボヤが燻っているところにガソリンをぶちまけたりすれば、盛大に燃えてしまって収拾がつかなくなる危険性がある。

それで、後先のことを考えずにいきり立った国民が政治家や国を突き上げて、「他国に占拠されている領土の強制奪還」なんて話に進むと、結果的に勝とうが負けようが、失うものはいろいろ。自国から戦争を仕掛ければ国連で制裁決議なんてことになるかもしれないし、そこまで行かなくても国の評判は間違いなく下がる。それでも勝てればまだマシで、負ければ踏んだり蹴ったり。

そもそも、領土問題というのは「こちら側」と「あちら側」の両方がある話。「こちら側」でいうところの「不法占拠されている○○を取り返せ」は、「あちら側」からすれば「不法な領土要求」という話になる。逆もまたしかり。

だから、この手の話でどちらか一方の言い分だけが通ることは滅多にないし、話し合いで解決しようといっても難しい。面子だけでなく、経済的利益が絡めばなおのこと。特に島嶼をめぐる領有権問題ではそう。というか、「丸」でも書いたように、島嶼をめぐる領有権問題は経済的利益と不可分。

「竹島は日本固有の領土、韓国の不法占拠を許すな」と主張なさるのは自由だけれど、「では、どうすれば解決するの ?」と訊いたらどうなるだろう。「毅然とした対応を」といっても、意味するところによっては、言葉の応酬だけでは済まなくなる。実のところ、「相手の言い分を飲むな、こちらの言い分を通せ」というぐらいのつもりで「毅然とした対応」っていう人が多いのかなあ ?

武力でもって強引に奪還する ? それを実現できたとして、その後は立場が入れ替わることになるけれども、どう対処していくつもり ? 強引に奪還するとしても、こちらから花火を上げることに付随するリスクや不利益についてはどうするの ?

かといって、相手の言い分を黙って受け入れて「ま、ま、ここはひとつ穏便に」とやっても、自国内に不満がくすぶれば、結局は穏便で済まなくなる。「地球国家」とか「地球市民」とかいう世迷い事を持ち出しても、もめる主体が国家になるかどうかという話でしかなくて、本質的解決にならない。「友好の島として共同保有」も同じこと。

つまり、「他国に占領されている固有の領土を武力で強引に奪取しろ」は無理があるけれども、だからといって譲歩すれば解決するという問題でもない。譲歩した結果として国内で吹き上がる人が多発すれば、違う問題の種をまく。

それがさらにエスカレートして、「愛国無罪」な人が続発したり、「彼等がやったことは違法だけれど、その国を思う心情に配慮すれば云々」なんて論調が出てきたりすれば、法治国家としての根幹に関わる。そうなったら、国の信用が危うい。

あれ、何十年か前に別件で、そんな論調が実際に出回っていたような…


なんてことを考え始めると、「領土問題というものを解決できる特効薬」なんてもんは存在しないんじゃないかと思える。どちらに転んでも、他方から不満が出てくるんだもの。かといって「人類滅亡」を解決策とはいわないだろうし。

と考えると。動機がどうあれ「誰もが納得する結論が存在しない領土問題を政治的に利用しようとするのは、劇薬」なんであって、そういう誘惑に負けた時点で政治家としては問題あるんじゃないかと。

そして、そういう形で喧嘩を売られた場合には、「自国の領土を他国に安易に譲り渡すことはしない」というシグナルを明確に出すこと。対外向けというだけでなく、国内の不満を抑える意味からも。第一、自国が実効支配している土地を護るという意思表示もせずに、他国に領有の要求なんてできるもんかと。

そういう姿勢をきちんとさせた上で、事態を極端にエスカレートさせないようにして現状維持、というのが、もっとも現実的な落としどころではないかと思った。

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