Opinion : 現場とフツーの人の通訳 (2012/9/3)
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IT 系の物書き業がメインだった頃には、「自分で実際に使ってハマってみて、そこで得られた情報をネタにする」というのがひとつのコンセプトだったけれど、航空・軍事・鉄道系がメインになってくると、今度は「自分の目で実際に見てみること」が大事だよなぁ、と再認識している今日この頃。
なんてことを思ったのは、たまたま最近、富士総合火力演習とかロシア海軍の駆逐艦とかいった具合に、「現物を見る」機会がいろいろ発生したせい。そういえば、横田では F-22 や HH-60G の現物を見ているし、調布では京王線の線路切り替え工事現場を見ている。
もちろん、スペック的な話や外見の話ぐらいなら、話を聞くだけでもなんとかなる。ところが、やはり現物を見てみないと分からないこと、現物を見て初めて納得することもいろいろ。そして、「ああ、『百聞は一見にしかず』って、そういうことだよね」と再認識しているのが最近の流れ。
総火演にしてもロシア艦にしても、実際に現物を見て分かったこと、かつ、これまであまり書かれていないことについては、機会を見つけて「字」にしていきたいと考えているので、目下はいろいろと根回しを図っているところ。うまく企画が形になると良いのだけれど。
「自分の仕事は専門家とフツーの人の間の通訳」というコンセプトからすれば、そうそう「誰もが実物を見る機会があるわけではない現場」に取材に行って、その結果を記事にするのも一種の「通訳」だと思う。
3 年前の観艦式で、荒れた海を突っ走るミサイル艇を目の当たりにしたら理解できたのは… というネタがあるけれど、そういえば、まだこの話は原稿にしたことがない。
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ただし現実問題として、その手の話と、スペック的な話をいろいろ並べて「○○ってすげー」といった話にまとめるのと、どちらがウケるんだろう、というのは不安が残るところ。
どこの分野とはいわないけれど、「○○ってすげー」というトーンでまとめた記事ばかりが目立つ分野って、実際にあるわけだし。それに、「現物を実際に見てみたら、能書きとは違うらしいと思った」なんてことも、ないわけではない。
そもそも、原稿料をいただいて仕事としてやる以上は、商売として成り立つかどうかという話は無視できない。といっても、商売のために信条を曲げるわけではなくて、どういうトーンで、どういう形に落とし込むかというところが腕 (?) の見せ所なのだけれど。
つまり、商売として差し支えない形にまとめつつ、その中でいかにして自分がいいたいことを盛り込むかというところで。ときには、字面では現れていなくても、行間を読むと「ははあ」となるような形に落とし込んだこともある。具体的にどの記事がそれに該当するのかについては、言及は差し控えるけれど。
ひょっとすると、実情を無視して「○○ってすげー」といって熱くなりやすいのは、現物を見たことがある人よりもむしろ、現物を見たことがない人なのかも知れない。個人的な思い入れで熱くなるだけなら大した実害はないけれども、それを周囲に "布教" し始めたり、現実社会に対して何か具体的な影響を及ぼし始めたりすれは、話は別。
そんなことにならないように、実際に現物や現場を見ては「いいこともある、よくないこともある」という具合で、全肯定にも全否定にもならずに中庸を得た書き方ができればいいのではないか、と思うことがある。
ただ、「そもそも中庸って何だ」という問題があるし、個人的な思い入れが邪魔をすることもある。「特定の国・組織・モノ・個人に対する過度の思い入れは仕事の邪魔」と言い切ってしまう背景には、そういう事情がある。
そうした思い入れがひとつの "芸風" として成り立つケースもあるだろうけれど、自分の場合、現時点でそれをやるのはあまり具合がいいと思っていないし。そんなこんなで、まずは愚直に「実際に見てみたモノを基にした通訳」に徹するべきだろうなあ、というのが目下の所感。時間もおカネもかかるけれど、今後もなるべく、機会を捉えては現場・現物を見るようにしないと。
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