Opinion : とあるニュースを聞いて思った、製品と商品のこと (2012/11/5)
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しばらく前に買って読んだ「備えよ ! ロジスティクス・サポートとは何か」に書かれていた話、それと「とあるニュース」を見て、「製品と商品の違い」なんてことを考えてしまった。
「新製品発売」も「新商品発売」も、一般的には同じ意味に受け取られることが多いし、店頭で販売されている一般消費者向けのモノが対象なら、それでも差し支えはないと思う。ただ、それを送り出す側の心構えとしては、「製品」と「商品」って違うのではないかなあ、という話。
ただし、これは辞書的な意味ではないので、「『広辞苑』に書いてあるのと違うじゃないか」などとクレームをつけるのは勘弁してね。と予防線を張ったところで話を先に進めると。
「製品」と「商品」の両者は全く別個の存在というわけではなくて、「製品」を「商品」に仕立てていく、というのが正しいのかもしれない。じゃあ、両者はいったい何が違うのかというと、「商品」は「売り物であることが前提」ということ。誰かがそれに価値を見出して、「この内容なら、これだけのおカネを払う価値がある」と判断して購入する。それが商品。
だから、「商品」というものは…
商機を逃さないように、適切なタイミングで提供されること
顧客の要望に合ったモノ、顧客の問題解決に役立つモノであること
顧客が支出できる金額に見合った価格設定であること
etc, etc (と書いてごまかす)
といった条件を満たしていないとダメじゃなかろうかと。
いいかえれば、作り手の自己満足や独り善がりばかりが前面に出たり、内容と比べて価格が高すぎたり、必要なときにモノが提供されなかったりすると、どんなに「製品」として優秀でも、「商品」としては落第。
たとえば、資格試験でも入学試験でもいいけれど、試験の想定問題集が、対象となる試験より後で出てきても受験者の役に立たない。「こんな技術を使っていて凄いでしょう」といっても、それが顧客の問題解決につながらなければダメ。そういう類の話。
そういえば、鉄道でも軍事でも何でも、趣味系の書籍や雑誌の記事を書いている職業物書きに対して「俺の方が誰それよりも詳しい」という類のことを口にする人がいる。もちろん、職業物書きよりも詳しく知っている、あるいは強力な情報源を持っている人はいるだろうけれど、それだけで職業物書きになれるかというと、さにあらず。
以前にもどこかで書いたような気がするけれど、職業物書きが書いているのは「商品」だから、スケジュールをきちんと守る必要があるし (うわあ !)、読み手に合わせて内容を書き分ける技術が要る (これ重要)。つまり、マニアックなことを書くか、小難しい話を易しく噛み砕くかを想定読者層や媒体に合わせて使い分けて、かつ (可能な限り) スケジュールを守るのが職業物書き。
多分、工業製品などを手がける場合でも同じで、「複雑精緻でハイテク満載、最新技術テンコ盛りなのが良い商品」と思ってしまうと、その時点で終了。もっとも、メーカー勤務の方なら、そんなことは百も承知であって、上の方で箇条書きしたような条件を満たすべく、必死になって脳漿を絞っているはずだけれど。
そうやって、相反する様々な条件の中でバランスをとろうと悪戦苦闘、その結果として送り出した製品に対して、「自分が欲しいモノは、これとは違う」とケチばかりつけるのがマニアというものなのかもしれない。と、某デジカメ情報サイトを見る度に思うのであった。
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といったところで「とあるニュース」の話。それが「2020 年を目標に、弾道ミサイルの早期警戒に使えるような UAV を開発する」というニュース。
もちろん、弾道ミサイルの早期警戒は大事。でも、それに負けず劣らず大事なタスクは他にもある。たとえば、広域洋上監視が可能な UAV なんていうのは、それこそ喫緊に必要とされているのでは。「動的防衛力」とか「島嶼防衛」とかいう旗が振られて、実際、尖閣諸島を巡る情勢が急激にピリピリしてきている昨今だから。
それこそもう「明日にでも欲しい」という類の話だろうに、そっちの方はどうなってるんだろうと。それに、UAV というハードウェアだけではなくて、その UAV を運用するノウハウをどのように確立していくか、航空法が関わってくるような問題はどう解決するか、有人機と UAV の空域共有はやるのかやらないのか、やるならどうやって解決・実現するのか、といった具合に、課題は山積。
そういう課題を解決した上で、可及的速やかに、最小の負担で最大限の情報収集・警戒監視を行えるような体制を作る、そのためのハードウェアを用意する。それが「動的防衛力」という課題を解決するための「商品」なんじゃないのかなあと。そんなことを思ってしまった次第。
あと、これは一般論として書くけれども、「性能も大事だけれど、数を揃えて行き渡らせることも負けず劣らず大事」。当事者こそが、一番よく分かってるはずなんだけれど…
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