Opinion : そんなに既製品が嫌いですか (2012/11/12)
 

先日、讀賣が「F35 ステルス戦闘機、日本が共同製造参入へ」という見出しの記事を載せた。冒頭の書き出しはこんな内容である。

政府は 8 日、航空自衛隊の次期主力戦闘機 (FX) として 2016 年度に導入する最新鋭ステルス戦闘機 F35 に関し、17 年度以降、米英などの企業が行う部品製造への国内企業参加を認める方針を固めた。

これを字義通りに読めば、コンポーネントの製造に日本企業も参画できるようにして、なにがしかの生産分担を行うという意味になる。ところがなぜか、この記事を受けて「日本向けに独自の改造を施すのでは」「日本製のアビオニクスを載せるのでは」といった調子の憶測をめぐらしている人がいる様子。

どうして、上の文面からそういう話が出てくるのだろうか。不思議である。上の記事からそういう憶測を導き出してしまうということは、「そうあって欲しい」という願望が根っこのところにあるのだろうか。

どうしてそんなに吊るしの機体が嫌ですか。


件の記事は、ちゃんと「生産」と書いているのに、それを「開発」と混同したのだろうか、なんて仮説も考えてみた。「開発」だったら、日本向けの機体に独自の仕様を取り入れたり、日本製のコンポーネントやアビオニクスを載せたりするのだと考えても不思議ははないから。でも、漢字、読めるんだよね ?

以前に別記事で書いたように、独自の仕様を取り入れれば取り入れるほど、そのために研究・開発・試験・評価する手間が余分に発生する。そして、独自仕様についてはオリジナルの製造元は面倒を見てくれないから、維持管理もコンポーネントの製造もアップグレードもマニュアル作成も、みんな自前。それを自国向けの機体の分だけ、自国の負担でやらないといけない。

「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」でも触れた話だが、独自仕様を取り入れるということは、そういう兵站支援の負担がライフサイクル全体を通じて発生するということ。そこまでの覚悟と認識があって「独自仕様」「日本向け魔改造」の旗を振ってるんですか ? という話になる。

そういう事情もあって、「できることなら吊るしのままの方がいい」という趣旨の話を以前に書いた。吊るしのままでは致命的に能力が欠如しているというならともかく、そうでなければ、場合によっては吊るしのままで妥協することだって必要ではないかと思う。(搭載するウェポンやセンサーなら、開発元や他国を巻き込んで、後から段階的に能力を向上する過程で取り入れる手もあるのでは ?)

それに、自前で研究や開発ができたとしても、それを試験・評価・戦力化する手間。これは意外と見落とされているのではないか。たとえば、最大射程 100km・同時 6 目標と交戦が可能な射撃管制レーダーと空対空ミサイルを作ったら、実際に最大射程でもって、同時に 6 つの目標を撃ち落とさなければ「合格」とはいえない。それも、単一のシナリオではなくて、想定されるさまざまなシナリオで。

そうなると、試験のための標的を用意するだけでなく、実戦に即したシナリオを作って、本物にできるだけ近い回避機動をやらせないと試験にならない。ヘタをしたら、最大射程をカバーできる射場が国内にない、なんてことだって起こり得る。そもそも、テストという観点からすれば、仕様以上に厳しいシナリオを用意して製品をいぢめるべきである。

ともあれ、試験・評価・戦力化を行うには、そのための施設・機材・人材・ノウハウが必要。そこまで認識した上で「独自仕様」「日本向け魔改造」の旗を振ってるんですか ? という話。

日本に限らず他の国でも (最近だと中国や韓国あたりが顕著だ)「我が国では○○を国産化しているぞ」「我が国の装備は他国のとは違うのだよ」「我が国の国産品は他国の類似品より優秀だぞ」といいたくなるもの。その裏返しとして、他国の類似品・競合品にケチを付けたくなるのは致し方ない。そういう気持ちも分かるけれど、でもねえ。

最近の中国当局は、そういう「マニア心理」を巧妙に活用していると思う :-p


ちなみに、件の記事にはこういう記述もある。

政府は、国内防衛産業が製造する部品の将来的な海外輸出も視野に入れている。

これが実現できれば万々歳。日本向けだと (確定している分は) 調達予定の 42 機から完成期輸入分を差し引いた、38 機分の仕事にしかならない。でも、他国向けの機体までコンポーネントの製造を請け負うことができれば、それだけ仕事の量が増えるし、設備投資も回収しやすくなる。

これは過去に、オランダ・ベルギー・ノルウェー・デンマークが F-16 を導入した際に、オフセットとして勝ち取った条件と同じ枠組み。そして、これら 4 ヶ国は他国向けの F-16 までコンポーネントの生産を担当することができた。

でも、「美味しい話だけれども、甘くはないぞ」とはいいたい。日本のみならず、他国のメーカーも同様に、可能な限り多くの分け前にあずかろうとして必死になっているのだから。そうした中で競争に打ち勝って受注を獲得するには、価格でも品質でも納期でも、他国のメーカーを上回らなければならない。

逆にいえば、海外メーカーとの受注競争という他流試合に打って出て、そこで受注を継続的に勝ち取ることができれば本物。とりあえずは既存の図面でコンポーネントを製造するだけだったとしても、将来的に、何か別の機種で、あるいは F-35 の能力向上などといった場面で、開発段階から参画できる芽が出てくるかも知れない。

ぶっちゃけると、そこまでやる覚悟と意気込みと実力がなければ、日本の防衛産業は生き残れないと思う。

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