Opinion : 全面開戦より先に心配するべきこと (2013/1/21)
 

なにも今の日本や中国に限らず、自国とどこかの国が対立したときに「もし戦わば」的な内容の小説が世に出たり、新聞・テレビ・雑誌などがあれこれと煽ったりするのはよくある話。第一次世界大戦の後から太平洋戦争にかけての時代にも、似たようなことはあったようだし。

そういう傾向と関係があるのかないのか、「中国が○○兵器で攻撃してくれば日本は潰滅」的な論調が出てくることも、当然ながら起きる。書いた当人が本気でそう信じているのか、それとも一種のビジネスとして意図的に煽っているのかどうかは知らないけれど。

そういう話が出てくれば当然、「潰滅しないために防禦体制を強化しろ」とか「やられる前にやり返せ、先制攻撃は自衛権のうち」とかいう論調も出てくる。ただ、第二撃であれ予防先制攻撃であれ、いわゆる「敵地攻撃能力」の是非を論じるのは、今回の本題ではないので措いておく。


問題にしたいのは、そもそもいきなり「日中全面開戦」に話がすっ飛ぶってどうなのか、それが果たして目下の最優先課題なのか、という話。それよりもっと蓋然性が高い話・重要性が高い話はないのかと。

折から、昨年の暮れに書いた通りの事態、つまり「神経戦や宣伝戦を仕掛けてくる」事態になっている。鳩山元総理を中国に呼んだのだって、その一環に違いない。それにまんまと乗せられて、都合よく利用されてしまった鳩山元総理の識見を疑う。

もっとも、その「鳩山発言」に対して「国賊という言葉が頭をよぎった」と発言した防衛相についても、「自分のポジションで、そういう言葉を使うことの影響を考えて欲しい」と思ったけれど。
ただ、その発言に対してマスコミは「大臣にあるまじき発言、責任をとって辞めろ」なんてことをまるでいっていないようだし、社民党の Web サイトを見てみたら完全スルーだったので、苦笑することしきり。社民党まで諦めさせてしまったか、鳩山元総理は。

おっと、それはそれとして。

領空侵犯や警告射撃、緊張が高まる中での睨み合い、というぐらいの事態に発展する蓋然性は決して低くないと思う。だからといって、明日にでも日本本土に弾道ミサイルや巡航ミサイルがワラワラと降ってくるレベルまでエスカレートしそう… な話を煽るのは、いくらなんでも「やり過ぎ」ではないかと思った次第。

もちろん、中期的・長期的な課題として弾道ミサイルや巡航ミサイルへの対処能力を高めることに異存はないけれども、さしあたっての喫緊の課題は、もっと別にあるんじゃないか。それを無視して、「明日にでも全面戦争」といわんばかりに煽ったところで、煽った本人のインカムが増える以上のメリットがあるのかといいたい。

なすべきことは、想定される脅威の「質」や「内容」を見定めた上で優先順位をつけて、急いで対処する必要がある課題、時間をかけて対処しなければならない課題、それと手持ちのリソースでは対処できない課題を洗い出すこと。そして、リストアップした課題に対して順番にリソースを割り振り、とにかく「今すぐ必要なこと、今すぐ可能なこと」から手を付けることが必要。

思うにそれは、弾道ミサイルや巡航ミサイルの飽和攻撃に対処することではない。
そうではなくて、恒久的に警備・監視体制を実現するための巡視船や海保の人員の増強であり、レーダー覆域を確保するためのセンサーやプラットフォームの整備であり、もしもまずいことになった時に適正に対処するための交戦規則の整備・周知徹底であり、民間人の保護計画立案であり、継戦能力確保のための各種施策であり、基地施設の抗堪性向上であり、誰かさんが足を引っ張ってくれた日米安保を改めて確固たるものにすることではないのかと。

ただ、脅威想定を行った結果として、自前の資金やノウハウやリソースだけではどうにもならないことも、当然ながら出てくるかもしれない。それならそれで、自前で用意する以外の別の手を考えて、手を打つなり根回しをするなり、そういう対処が必要ではないのかと。むやみに勇ましい話をするより先に、もっとするべきことは山積してるんじゃないのと書いてみたい。


そもそも、ミサイルがどうとか防衛網がどうとか先制攻撃がどうとか反撃能力がどうとかいう以前に、まずは日本人が今後、中国という「困った隣国」に対してどう向き合っていくのかという「覚悟」を決める必要があるのではないか、とも思う。その「覚悟」が決まっているかどうかは、恫喝や宣伝に立ち向かう際に重要な要素になるはずだから。

それに、軍事的に制圧される事態だけ気にしていたら、それより先に政治的・経済的に制圧されたり併呑されたり、なんてことにならないといいきれるのか、という話もある。実は、全面開戦の心配ばかりしていないで、そういう事態も考慮に入れるべきではないのかと。そもそも、中国にとっても全面戦争よりその方が安上がりなのである。

そもそも、中国の政府や軍関係者が「○○兵器を使えば日本は敵わない」とか「全面戦争だ」とかいう論調をメディアに乗せて流すことだって、宣伝戦・心理戦の一環であろうに。そんなことにも思いが至らないでどうするの ?

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