Opinion : 本来任務と本来任務でない任務 (2013/4/1)
 

今日はエイプリルフールだけれど、ここで書いてることは大真面目。


アメリカで、いわゆる強制削減 (sequestration) を発動、その中でも最大の犠牲者が国防関連支出ということで、O&M (Operation and Maintenance) 費・装備調達費・研究開発費への影響はいうにおよばず、さらには文官の一時帰休なんて話まで出ている。その一時帰休の期間は以前の話よりも短くなりそうだけれど、ゼロになったわけじゃない。

そんな中、日本ではどうしたことか、「強制削減で基地祭が中止」とか「強制削減でデモフライトが中止」とか、そういう話ばかりが盛り上がって (?) いるようにも見受けられる。それともこれって、自分の身辺にだけみられる特異な傾向なんだろうか。

それを検証しようとすると収拾がつかなくなるので、とりあえず措いておくことにして、強制削減で基地祭・その他イベントの心配が先行しているという前提でツッコミをひとつ。

それでいいの ?


これって結局のところ、タイトルでも書いている「本来任務と本来任務ではない任務」の話につながる。米軍にしろ自衛隊にしろ、本来任務というのは国防であって、基地祭とかデモフライトとかいうのは、その本来任務に対する理解を深めてもらうとか (お堅い言い方をすれば) 納税者向けの一種の説明責任とか、リクルートのためのツールとかいう趣旨があるわけで。

米軍基地の基地祭だと、ときどき日本近辺ではなく本国の部隊から珍客がやってくることがあるけれども、これだってなにも、基地祭で観客を喜ばせるため「だけ」で飛来してきているわけではあるまい。

ありそうなパターンとしては…
「海外展開の訓練を兼ねている」「演習や合同訓練のために展開したついで」「(場合によっては) 近隣諸国に対する一種の示威」。そんなこんなの、本来任務と関連する合理的な理由が先にあって、それとイベントにおける広報効果を兼ねるというのが、珍客が現れる主要な背景事情といえるのでは ? なんていう話は、以前にもどこかで書いたか。

身も蓋もないことを書けば、(アメリカ本土ならともかく) 海外の基地祭に珍客を送り込んで喜ばせても、アメリカの納税者に対する説明責任にもならなければ、アメリカ国民に対するリクルート効果もないのだし。そりゃまあ、基地施設を受け入れている日本人が喜んでくれるのであれば、それはプラス効果であるにしても。

そんなことを書き始めるとキリがないけれども、いまさらながら「基地祭の心配をするよりも先に、本来任務への影響を心配してみてもいいんじゃないの ?」ということはいいたい。

何も自衛隊や在日米軍に限った話ではなくて、海上保安庁だってそう。尖閣諸島をめぐる情勢の変化が誰に一番影響したかといえば、それはおそらく海上保安庁と海上自衛隊。特に平時の警備・法執行という話になれば海上保安庁が主役。だから、情勢が長期化するという見通しを受けて、専従部隊を編成するとかいう話も出てきた。

そういう「本来任務」で多忙な状況下では、海保の広報関連イベントが中止になったからといって、文句をいうのはお門違い。むしろ、本来任務を後顧の憂いなく遂行できるように「自分が楽しむためのイベントはどうでもいいから、任務をしっかりやってくれ」という方が筋ではないかと思う次第。

そもそも、本来任務を遂行できないような状態になってしまったら、広報イベントも基地祭もあったもんじゃないのだから。もちろん、イベントを楽しむことができて、中の人が「本来任務」に駆り出されないで済む方が、世の中が平和でいいというのは真実だけれど。


本来任務との関わりという話になると、たとえば「F-X の機種選定」とか「こういう不備がある」「こういう問題がある」といった話の中で頻出する「あれを買え、これを買え」という類の話。これも、能力、不備を埋められるかどうか、問題を解決できるかどうかという話と、個人的趣味がゴッチャになっていないかと思うことがある。

それはたとえば「アメリカ製品は嫌いだ」とか「アメリカ製品ばかりではつまらんから珍しい欧州製品がいい」とか「やはり国産品を見てみたい」とか「日本では見かける機会がないものを持ち込んでみたい」とかいう類の話。

そりゃもちろん、趣味でやっているのであれば、珍しいものを見てみたいという感情は自然なもの。ただ、その個人的趣味に「安全保障上の必要性」という大義名分を被せることになったらどうなんだろうと。個人的趣味だと自覚した上でモノをいうなら構わないと思うけれど。
(ちなみにこれ、「個人的な好みや思い入れは仕事の邪魔」という理由のひとつでもある)

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |