Opinion : 費用対効果の計算結果と分母 (2013/4/15)
 

どこかの食べ物屋で飯を食う度に「コストパフォーマンスが云々」と書くのも程度問題だなあ、なんとことを考えてしまっている今日この頃。気になるのは分かるけれど、毎回のようにそればかりいうのも、ちとビンボくさくないかと。

そうこうしているところに、今度は「米国防総省の FY2014 予算要求で設定した F-35 のお値段がどーたらこーたら」とかいう話も出てきた。そんなところから、話の流れで今週の記事に。


以前に、どこかの記事で「国産化や国内開発を擁護したり、その必要性を主張したりするのに、必ず『国産の方が安い』といわなければならない、なんてことになるから話がおかしくなる」という趣旨のことを書いたような気がする。

問題は、そもそも「コストパフォーマンス」「費用対効果」というのは、得られる効果・便益を費用で割った値のハズなのに、いつのまにやら、絶対的なコストの話に化けてしまっていないか、ということ。

お料理でも、パソコンでも、カメラでも、交換レンズでも、戦闘機でも、ミサイルでも、軍艦でも、装甲戦闘車両でも (いい加減にせえ !)、「安くてダメなもの」があれば「高いけど良いもの」もある。理想は「安いけど良いもの」だけど、良いものを作るには相応の人手や素材が必要になるわけで、ものには限度というものがある。

つまりは、「かけられるコスト」と「得られる価値」のバランスをどこで取るかという話。ただし、得られる価値を誰もが納得できる形で定量化できるとは限らないし、むしろそうでないことの方が多いだろうから、そこで議論が紛糾するのだろうけれど。

たとえばの話、絶対的な価格が安くなくても、得られる価値が大きければ、結果として費用対効果は良くなる。その典型例が、北朝鮮の核開発・弾道ミサイル開発かも知れない。

北朝鮮では、国民生活を犠牲にして核開発・弾道ミサイル開発にリソースをつぎ込むことが政治的に許容される。つぎ込むリソースは極めて高くついても、それに見合った成果が得られると考えているから計画を止めない (本当にそうなるかどうかは知らん)。

では、日本で同じ考えが成り立つかといえば、無理。立場や状況によって、費用と成果のバランスがとれるポイントは違う。もっとも、いくら高い価値があるといっても、かけられるコスト・許容されるコストには、自ずから限度というものがある。その限度も、立場や状況によって幅がある点に注意。

そんなこんなで、F-35 のお値段の話。単に絶対的な価格、それも本格量産に入る前の変動要素が多い段階での価格を引き合いに出して「高い」となじる方もなじる方なら、「安い」とかなんとか反論する方も反論する方。そんなもん、永遠の水掛け論にしかならない。(そもそも戦闘機の値段の話になると、単純に総額を機数で割り算する人が後を絶たなくて、それも問題だと思う)

そうじゃなくて、「絶対的な価格が高くなっても、それを投じる必要がある」とか「絶対的な価格が高くなっても、それに見合ったメリットを期待できる」とか「F-35 でなければできないことがある」とか。そういう反論の仕方をすればよいのに、と思った次第。「便益÷費用」という割り算の結果が問題なのに、分母の数字の大小で水掛け論を展開してどうするのかと。

冒頭で触れた国産化論・国内開発論の話も同じ。ただし、出てくるものを外国製品と比較したときに顕著なアドバンテージがないのでは、それは文句いわれても仕方ないけれど。(時間と費用をかけたあげくに、見劣りするものが出てくるのは論外)


ただ、最終的に大きなメリットにつながるものを作ろうとすれば、費用も時間もかかるし、リスクも考えられる。だから、「小さく作って少しずつ育てる」というのが、もっとも現実的な考え方なのかも知れない。

それを踏まえた上で、たとえば F-35 であれば「今は苦労しているし、時間もリソースも費用も食ってるけれど、それを将来のリターンにつなげたい。それが実現すれば、つぎ込んだ費用の元は取れるし、費用対効果は向上する」というのが、もっとも現実的な反論の仕方かと思う。

もっとも、こういうことを書くと「今の炎上ぶりからして、リターンが得られるはずがない」と言い返す人が出るのはお約束 (すげー予言者ぶりだ :-p)。でも、そういう人って、現時点で熟成が進んで順調になった装備開発プログラムが (程度の差はあれ) 過去にいろいろ苦労してきていることは綺麗さっぱり忘れてるんだよね。

最後に、話はいきなり変わって。
武器開発の世界で、特に戦時に負けが込んできた国が「画期的な超兵器で一発逆転」症候群にひっかかる。でも、そんな一発芸に頼ろうとする時点で負けスパイラル。そういえば、先日には「銃刀法違反」で訴えたら現物がモデルガンだった、なんていうスットコドッコイな話があったようだけれど、これも一発逆転を狙って滑った一例かと。

「価格高騰」や「炎上」をダシにして装備調達計画に難癖をつけるのも、ひょっとすると、「多くの人を納得させやすそうな必殺兵器で一発逆転」という点で、似たところがあるのかも知れない。正攻法の、本筋の議論を避けようとしている点において。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |