Opinion : 勝利病アクセラレータ (2013/5/6)
 

なんだか最近、「風向きが変わって、追い風が吹いてきたときの向き合い方」について考えさせられるような事例が多いと思う。

個人でも企業でも政党でも何でも、追い風が吹いたり逆風が吹いたりと風向きが変わるのはよくあることで、常に追い風だったり逆風だったりというもんでもない。ただ、その逆風のときにため込んだ「怨念」や「ルサンチマン」が、ネガティブな意味でエネルギーになって噴出して、却って追い風を台無しにしているのではないかなあ。という話で。


その典型例が、昨今の中国外交なのかも知れない。かつて諸外国から侵略されてグチャグチャになった過去があるのは確かであるにしても。

「市場経済導入」から「大きな潜在市場という餌にモノをいわせた海外投資の呼び込み」等々の施策で経済力を一気に伸ばした。その勢いにモノをいわせて「過去の怨念を一気に晴らして中国が世界に君臨するのだ」とばかりに、ちと調子に乗りすぎていませんか。と思わされることが多すぎるから。

そこで嫌らしいと思うのは、「国産」「先端技術」をアピールする一方で、場合によっては「中国は発展途上国だから」といって「過去の時代」に逃げ込むところ。普通、そういうのを二枚舌という。

日本の国内でも、「これまで、自分たちは不当に虐げられてきた or 軽んじられてきた」といって被害者意識やルサンチマンに凝り固まってしまったところに、いきなり追い風が吹いて暴発しているように見える事例はいろいろ。ベクトルとしては正反対だけれども、「反原発」にしても「反韓・反中」にしても、そういう意味では似たようなものじゃないのかなあと。

たとえば「反原発」についていえば、これまではいくら反対運動をやっても稼働中の原子炉を止めることはなかなかできなかったし、せいぜい新設の足を引っ張るのが関の山。
それが福島第一の事故のおかげで「追い風が吹いた」と思って一気に突っ走ったけれど、「反原発」「卒原発」を掲げた政党が衆院選でどうなったかを見れば、サイレントマジョリティの支持を得られたかどうかはおおいに疑問。その一因は、反原発運動の暴走にあったのでは。

大久保 (山陽本線や奥羽本線じゃなくて山手線ね) あたりでデモをやっている人達にも、似たところを感じる。これまで、おおっぴらに韓国や中国のことを批判すると、"進歩的" (本当にそれが進歩につながるのかどうかは知らない) な言論人だとか新聞だとかいったところから叩かれていた。

ところが昨今では、尖閣諸島や竹島をめぐるゴタゴタの流れで、以前とは風向きが少し違う。それに乗っかったのはいいけれど、過去の反動なのか、調子に乗りすぎて暴走している感がある。

実のところ、俗に「ネット右翼」といわれている人達は、思想的な意味で右翼なのでも何でもないんじゃないかと思うことがある。もともと「街宣右翼」という、誠にイメージのよろしくない集団がいて、そのイメージを投影するための蔑称に過ぎないんじゃないかと思うから。(反対に、いわゆるサヨクだって本当に左翼なのかどうかは怪しい)

つまり、国粋主義者とみなされていて、そう解釈されそうな主張を展開していても、果たして本当にそこまで考えてのことなのか。実は、これまで「日本が悪いということにしておけばとりあえず正義」という風潮が目立っていたことに対する反発が、追い風を得て目立ち、ついでに暴走するようになっただけなんじゃないかということ。

反韓・反中も同じ。つまり、これまで「韓国・中国の言い分こそ正義だ」と言いつのってきた向きがあり、どちらかというとそちらがマジョリティみたいな空気があった。そういう中で、虐げられていた (少なくとも当事者はそう思っている) ことに対して、追い風を得て反発が噴出、それが目立っているだけなんじゃないのと。


この仮説が正しいのだとすると、どのケースをとっても、思想的・論理的な土台は、あまりしっかりしていないと思われる。「○○の行状が怪しからん」「○○に反対する・抵抗するのが目的」というあたりに立脚しているわけだから。

そういう状態で「追い風が吹いた」といって調子に乗っていると、状況が見えなくなって、やがて足元をすくわれてズッこけることになるのでは。風向きが変わったときに舵取りを間違えて船が転覆する、とでもいうのか。(フネの操縦で本当にそういうことが起きるんだろうか。皆無ではなさそうだけれど)

過去に溜め込んだ怨念やルサンチマンが強力であるほど、いざ追い風が吹いて「勝った」と思ったときの「勝利病」が加速するものなのかも知れない。となると、その手の怨念やルサンチマンというのは「勝利病アクセラレータ」なのか。

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