Opinion : 用廃になった中古装備の有効活用 (2013/8/26)
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陸自で用途廃止になったヘリの処分に関して、条件違反の転売をやらかす騒ぎが起きたのだとか。なんでも、「スクラップにすること」という条件で陸自から用廃のヘリを購入したのに、その条件を守らないで、別の業者に勝手に転売していたとのこと。
(陸自ヘリ 12 機分の部品、解体せず海外に売却 : YOMIURI ONLINE)
この一件、「武器の不正輸出ではないか」という文脈で見る人がいそうだけれども、本質的な問題はそこだろうか ?
国有財産の処分に関する制度や規定の問題もありそうだから、「武器輸出三原則等の弊害が」とだけいいたてるのは問題がありそう。ただ、この話が武器輸出三原則等と無縁ともいえない。用途廃止になった装備を他国に売却する際の条件・規定・制度といったものが確立していれば、わざわざ「解体する」という条件をつけて払い下げる必要もないわけだし。
この件について、清谷信一氏が以下のように書いておられるけれども、これにはまったく同感。
「売却前に武装を外しており、武器の不正輸出にはあたらない」ならば、本来輸出してもOKで、業者を処罰する必要もないでしょう。早く中古品の売却システムを構築するべきです。(当該記事)
そういえば何年か前、フィンランド国防省が III 号突撃砲をネットオークションにかけたことがあった。といっても、公表した写真を見る限り、見た目はほとんど屑鉄で、どう見ても実働可能な代物ではなかった。
そもそも、現時点で III 号突撃砲が戦の役に立つ場面なんて限られるだろうし、補用部品なんて入手不可能である。となると、廃材として活用するか、それともコレクターズアイテムにするか、という程度の使い道しか思いつかなかった。そんなものを延々と抱え込んでいたフィンランド国防省の「物持ちの良さ」には驚かされるが、それはともかく。
この III 号突撃砲は極端としても、自国で用途廃止になった装備を他国に売却している事例は結構ある。イギリスの DSA (Disposals Services Authority) みたいに、用廃になった装備の海外売却を組織的にやる部署を設けている事例もある。
これは、単に国有財産を有効活用して資金稼ぎをするというだけの話ではない。売却先の国との間で軍事的協力関係を構築するとか、売却時の回収や修理、売却後のサポート業務などで自国のメーカーに仕事を作れるとかいった余録もある。
現実問題として、軍艦みたいに巨大な鉄の塊ならともかく、ヘリや車両ぐらいだと、スクラップとして売却することのゲインは大きいもんだろうか ? むしろ、兵装やその他の機微に触れる機材 (通信機や IFF など) は外して、すっぴんの状態で組織的に海外売却する体制を作る方が良くないだろうか ?
ただし、売却先は選ぶ必要があるし、売却が経済的な利益だけでなく、自国の国益に資することが望ましい。東南アジア諸国に中古の巡視船を供与、あるいは売却するのは、これらの条件を満たした典型例かと。
要は、日本から売却したものが勝手に他国に転売されたり、自国民への弾圧や近隣諸国への侵略に使われたりするのがまずいわけだ。だから、その一線を踏み越えないようにするのが本質的な問題解決。
よって、一概に「用廃品の輸出にはハンターイ」とやるのではなくて、相手先を選ぶための明確な基準や監督の体制を作る。その方がよほど明朗ガラス張りになるだろうし、今回みたいな事案の再発も防げるのでは ? ただし、基準や体制だけでなく、相手を見抜くインテリジェンスの問題でもあるわけだけれど。
「カジノにする」とか「テーマパークにする」とかいう口実を掲げておきながら、購入後に当初の約束を反故にするような真似をする国が現に存在しているわけだから、相手選びは重要である。どこの国のこととはいわないけれど :-p
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規則にしろ制度にしろ法律にしろ、何か実現すべき目的があって存在しているはずのもの。それを忘れて「法律で決められているから反対」「既存の制度をいじるのは反対」となってしまえば、単に教典が否定されるのを拒絶するだけの宗教論争になってしまう。武器輸出三原則等だけでなく、集団的自衛権をめぐる議論にも似たものを感じる。
そうではなくて、「そもそもの目的は何か」「それは現実的か」「護るべき一線はどこにあるのか」といった議論にならないことには。
それと、今回の一件についていえば、単に国有資産を有効におカネにするというだけの話じゃない。中古品の海外売却を通じて相手国との関係強化を図ったり、その結果として日本にとっての戦略的メリットをもたらしたり、というところまで視野に入れて考えないと。
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