Opinion : インテリジェンスと "一生、勉強" (2013/9/2)
 

「診断メーカー」というジョーク系サイトがあって、ときどき遊んでいる。そして昨日、こんなのが出てきた。

井上孝司は心の中で 明日から学校とか行きたくねぇーー と叫んでいます。shindanmaker.com/391778

自分は物書きという名の自宅警備員だから、学校に通って何かを勉強しているというポジションではない。でも、物書きでもその他の仕事でも、なにかしらの「勉強」はつきものだし、本人がそれと意識しているかどうかはともかく、「人生、終わりまでずっと勉強だよね」と思う。

その中でも、特に「○○学校」とか「○○課程」の類に頻繁に通うことになるのが軍人という稼業だけれど、それはともかく。


自分でこんなことを書くのもなんだけれど、ことに軍事系物書きの仕事って、情報機関の分析担当者に似ている部分があると思う。

情報資料を作成して提出する相手が「指揮官や国家首脳」なのか「読者」なのかという違いはあるし、相手が変われば求められる情報資料の内容・方向性も違う。だから、仕事に取り組む際のマインド セットにも違いが生じるけれど、データをかき集めて、それを自分なりに評価・検討した上で付加価値を付けて何か書く、というところは似ている。

それって華麗な仕事でもなんでもなくて、はっきりいって地味。そりゃまあ、ときには現場取材に行ったり記者会見に出たりテレビに出たりするけれども、それは「ときどき」のことで、日常はずっと地味。でも、その地味な日常があるから仕事が成立する。

特に、コツコツとデータや資料を集めて観察するのは重要。対象は何でもいいから、自分が興味を持った分野について、特定の情報源を丹念に追い続けるだけでも、得られるものは結構ある。調達情報でもいいし、国やメーカーの発表でもいいし、国のトップや閣僚の声明でもいい。

ただ、重要なのは文面をそのまんま真に受けないこと。たとえば国のトップが国際的事件に際して出す声明ひとつとっても、ストレートに声明に盛り込む場合もあれば、明言はしないで暗にメッセージを送ろうとしている場合もある。本音が別のところにあっても、それをそのままいっちゃうと喧嘩になるから、わざと当たり障りのない定型の文句でごまかす場合もある。

そういうのは、文面をそのまま眺めて「公式発表 = 真実かつ全体像」と思いこんでしまうと見えてこない。ウソはいっていないけれども、表に出していないことがあるかも知れない。つつかれたくない肝心のところを、うまいこと誤魔化そうとしているかも知れない。

そうなると、時間をかけて声明をたくさん見たり、それと同時にバックグラウンドの状況やその他の情報源と比較照合したり、声明を出した後で何が起こったのかを観察したりといった、極めて地味な作業の積み重ねが必要。それによって初めて見えてくるものは必ずあるし、そういうところも「一生、勉強」の一例かなと。

マスコミ報道も「マスコミは偏向している」とか「マスコミは真実を伝えていない」とかいっていきり立っているうちは「まだまだ」。特定の分野や事案について、どこの社がどういう姿勢で報じているかを丹念に追い続けて傾向を掴み、自分なりの「補正値」を確立するのが重要だというのは、自分が過去に何回も書いてきた話。

そもそも、「偏向のない中立公正」を求める時点で、何か間違ってると思うし、むしろそちらの方が危険ではあるまいか。だいたい、何が中立公正なのかを決める、万人が納得する中立公正な基準があるものだろうか ?


で、なんだってまた、改めてこんなことを書こうと思ったのかといえば、シリア情勢をめぐる報道が急増しているから。

この手のクライシスが発生した場合の、各国の政府や国家首脳や軍の動向、あるいはそれをめぐる報道のパターンを平素から掴んでいる人と、そうでない人では、当然ながらマインド セットが違ってくるから、見え方も違ってくる。

そこで表向きの文面を真に受けるかどうか、声明やその他のさまざまな挙動の内容だけでなく、そのバックグラウンドや背後の意図まで思いをめぐらせることができるかどうか。そこのところで「差」が生じるんじゃないかと思う次第。

たとえばの話、合同演習や軍の展開について発表する際に「通例のもの」「特定の国を念頭に置いたものではない」といった定型句が付くのはよくあることだけれど、それをそのまま真に受けていいのかという話。

手近なところだと、ドンブリドーン ブリッツみたいな日米合同演習があって、それが島嶼防衛・島嶼奪還を意識したシナリオだったときに「尖閣情勢とは無関係」と説明されたとして、それをどこまで真に受けますか ? と。他所の国でも同じことである。

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